「勝つ」より「治める」――始皇帝の失敗が教える“持続する組織”の条件
【悩んだら歴史に相談せよ!】好評を博した『リーダーは日本史に学べ』(ダイヤモンド社)の著者で、歴史に精通した経営コンサルタントが、今度は舞台を世界へと広げた。新刊『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)では、チャーチル、ナポレオン、ガンディー、孔明、ダ・ヴィンチなど、世界史に名を刻む35人の言葉を手がかりに、現代のビジネスリーダーが身につけるべき「決断力」「洞察力」「育成力」「人間力」「健康力」と5つの力を磨く方法を解説。監修は、世界史研究の第一人者である東京大学・羽田 正名誉教授。最新の「グローバル・ヒストリー」の視点を踏まえ、従来の枠にとらわれないリーダー像を提示する。どのエピソードも数分で読める構成ながら、「正論が通じない相手への対応法」「部下の才能を見抜き、育てる術」「孤立したときに持つべき覚悟」など、現場で直面する課題に直結する解決策が満載。まるで歴史上の偉人たちが直接語りかけてくるかのような実用性と説得力にあふれた“リーダーのための知恵の宝庫”だ。
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秦の統一を可能にした「法家の改革」
――血縁を断ち、国家をつくる
偉大なる統一者、始皇帝
強国・秦の躍進
紀元前221年、中国史上初の統一国家を築いたのが始皇帝です。
本名は秦王政。法家の改革者・商鞅が推し進めた富国強兵政策の成果を活用し、戦国の6国を次々と滅ぼしていきました。
中国最初の「皇帝」誕生
早すぎる帝国の崩壊
統一を果たした彼は、自らを「唯一の支配者=皇帝」と名乗り、中国最初の皇帝となったのです。
しかし、この壮大な国家・秦は、統一からわずか15年後の紀元前206年に滅亡してしまいます。なぜ、これほど強大だった王朝があっけなく崩壊してしまったのでしょうか。
秦の崩壊から学ぶ
リーダーシップの教訓
この秦のあっけない崩壊は、現代の組織運営やリーダーシップを考える上で、非常に示唆に富むケーススタディと言えます。
始皇帝は、法家思想に基づき、強力な中央集権体制と厳格な法治主義(現代のコンプライアンス)で帝国をまとめ上げました。しかし、万里の長城や阿房宮の建設といった「超大型プロジェクト」の連続は、民衆(現場の従業員)に過度な負担を強います。
これは、急激な事業拡大やM&A後の統合(PMI)を急ぐあまり、内部の歪みや疲弊を顧みない経営に似ています。短期的な成果の裏で、組織の持続可能性を支える「人」の心が離れてしまったのです。
カリスマ亡き後のガバナンス不全
さらに決定打となったのが、始皇帝という絶対的なカリスマ(創業者)亡き後の後継者問題です。彼の死後、側近たちの権力闘争が始まり、組織は急速にガバナンス不全に陥りました。
いかに強固なシステム(法)を構築しても、それを運用する「人」や「次世代への継承プラン」(サクセッションプラン)が欠如していれば、組織はトップの交代と共に一気に崩壊しうることを示しています。
持続的成長への教訓
秦の教訓は、「いかにして勝つか(統一)」だけでなく、「いかにして治め続けるか(持続)」の重要性です。ルール(法)による統制と、人心(エンゲージメント)の掌握。そのバランスこそが、組織を持続させる鍵と言えるでしょう。
※本稿は『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。















