急進的改革が招く「組織アレルギー」

秦の「強すぎた成功」と「早すぎた崩壊」の歴史は、そのまま現代の組織経営やプロジェクトマネジメントの教訓として読み解くことができます。

秦が断行した「郡県制」は、現代で言えば、M&A(合併・買収)後の統合作業(PMI)や、全社的なシステム刷新に似ています。

理念(中央集権)がいかに優れていても、現場の文化や既存の権益(地方豪族)を一方的に否定し、急激な標準化を強行すれば、必ず強い抵抗や反発、すなわち「組織アレルギー」を引き起こします。

変革には、効率だけでなく、現場の感情や伝統を尊重する「移行期間」や「妥協点」が不可欠です。

「成功の後」こそ、足元を固める

始皇帝は「統一」という大目標を達成した後、間髪入れずに次の巨大プロジェクト(戦争・土木事業)へと突き進み、民(社員)を疲弊させました。

市場シェアの獲得大型案件の受注といった「勝利の後」こそ、リーダーが最も慎重になるべき時です。リソース(人・モノ・カネ)を限界まで使い切るのではなく、むしろ組織の「余白」を回復させ、内政(組織体制や人材育成)を固めることが求められます。

「勝つこと」と「治め続けること」は
全く異なるスキル

秦の失敗は、「勝つこと」と「治め続けること」は全く異なるスキルであることを示しています。

漢が秦の失敗から学び、柔軟なハイブリッド統治(郡県制と封建制の併用)で400年の礎を築いたように、持続可能な経営とは、理想論(急進的な中央集権)と現実(現場の自律性)のバランスを取り続けることだと言えるでしょう。

※本稿は『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。