トキ、木刀を差して出勤する

 フミは勘右衛門に、トキが女中をやるのをゆるすように諭す。勘右衛門は「明日からもっていきなさい」と木刀をトキに渡す。

 いざというときのためにと言われ、「え〜」とからだをくねらせ困るトキ。ここも、単なる感動譚(たん)にするよりも、トキの奇妙なリアクションがあとを引く。

 さらに司之介は、暮らしがこれで楽になったら仕事やめようと考えているのではと疑われ、松野家は、へらへらとのんきに笑っている。

 彼らのノリについていけず、三之丞はしら~とした顔をしている。救われたはずの彼だが、この理解不能な親戚に囲まれて、いたたまれないことだろう。

 トキはさっそうと(?)木刀を差して、ヘブンの家に出勤する。ヘブンは「ラストサムライ」とうれしそう。トキはサムライのように木刀を抜こうとするが、ひっかかって抜けない。

 トキはヘブンを喜ばせるためにも、勘右衛門に剣道を教わって、それをヘブンに伝授するといいのではないだろうか。

 最後に重要なことを指摘しておきたい。

 フミはトキが洋妾にさせられると不安だったことを「かわいそうに」と思いやっていたが、タエは三之丞が社長にこだわってひどい目にあっていることを想像もしていない。自分が食べずに野垂れ死にするのは自分の誇りを大事にしていてご自由に、だけれど、子どもを巻き添えにするのはいかがなものか。フミとトキ、親としての違いが如実になっている。

 タエには悪気はないのはわかる。単に家に縛られる育ち方をしてきてしまっただけなのだ。でも、それによって子どもがしなくていい苦労を強いられるのは切ない。

 そういう意味で、トキは貧しいけれど松野家の養子になれて幸せだったのかもしれないと思う。