司之介(岡部たかし)の尾行をかわし…高石あかり(トキ)が「アクション仕込み」の身体能力を見せた〈ばけばけ第33回〉『ばけばけ』第33回より 写真提供:NHK

日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年半続けてきた著者による「読んだらもっとドラマが見たくなる」連載です。本日は、第33回(2025年11月12日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

「夜中です」「行きましょう」

 ヘブン(トミー・バストウ)に女中として雇われたトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)。ふたりきりにならないように、花田旅館の人たちが気を配ってくれたものの、夜、とうとうふたりきりになってしまった。

「しじみさん」と呼びながらヘブンが部屋から出てきた。神妙な顔のトキ。

 古くから若い娘が化物の悪さを鎮めるために生贄(いけにえ)にされるという物語がある。たいていは犠牲者として描かれるが、例えばディズニーの『美女と野獣』はヒロインが父を助けるために果敢に野獣の屋敷に留まることを選ぶという、自分の意思で行動するヒロイックな面が強調される。トキは『美女と野獣』系として描かれているように感じる。

 ヘブン「夜中です」
 トキ「はい」
 ヘブン「行きましょう」

 行きましょうとはどこへ? 隣の部屋へ? 観念して敷居をまたぎ隣の部屋へ。ヘブンの前に立つと「ご苦労さま」「今日は終わり」。

「いきましょう」とは、おかえりくださいの意味だった。

「帰ってええんですか?」トキは拍子抜けしながらヘブンの家を出る。そのあとヘブンはまだ仕事を続けていた。

 帰り道。夜中だが遊郭はやけに明るい。柳が揺れ、トキの髪が揺れる。あちこちでお金をもらって男性にしどけなく身を任せている遊女たちの姿がある。自分もいずれあんな感じにと彼女たちと自分を重ねたのか、トキははあはあと過呼吸になって、走って家にたどり着く。

 遊郭と違って静かで薄暗い家。戸を開けると、家族はニコニコあたたかい笑顔で待っていた。ホッとして、玄関先に倒れ込むトキ。「生きちょるー」。

 でもその平和を打ち破る者が。こんな夜中に誰。