シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

子どもの教育でやってはいけない、最も危険なこととは?Photo: Adobe Stock

子どもをインターナショナルスクールに
通わせた方がいいか?

 日本で子育てに熱心な親御さんたちから、海外のインターナショナルスクール事情についてよく質問を受ける。私は、「インターだからいいとか、日本の伝統的名門校だからダメとかは、ありえない」と答えている。

 私の娘が、シンガポールで通っている学校の素晴らしいところは、「好奇心の解き放ち方を叩き込む」ところだ。

 小学校低学年までは、アカデミックな学習能力よりも、好奇心の発露を重視しているのだ。

 そして「親や先生の期待に応えること」を徹底的に悪とする

 ・誰かの期待に応えるのではなく、常に自分自身であること
 ・自分の好きを探求させること

 が大事なのである。

自分はどこに行きたいのか?

 そして中学校からは、探求心をサポートするために学力を叩き込んでくれる。

「好奇心の発動の仕方」を、それが旺盛な若いうちに確立してあげないと、これからの子供たちの人生は危うい。

 まさに、自分はどこに行きたいのか、ということだ。方向が決まれば、あとは文明の利器を使うだけである。
AIであり、車であり、飛行機である。

 これからの時代は、自分がコンパスさえ持てば、それを指し示せば、AIがそこに早くラクに連れて行ってくれる。

 しかし、自分の行きたい方向がわからずに、AIと競争させるような教育ばかり受けていると、まさにAIに瞬殺される人生を送るだろう。

 人間がAIと「作業」で競争して勝てるわけがない。

脳内に幸せを感じながら、
探求を続けることが人間の役割

 人間の役割は、方向を決めてAIなどのテクノロジーを使って、そちらに早く進むことだ。好奇心に基づき、脳内に幸せを感じながら、自分の好きを探求することが人間の役割になる。

 どんよりとした気持ちで、嫌々進める指示待ち「作業」は、人間の仕事ではなくなる。

「自分であること」「自分の好きを探求する楽しさ」を知ることは、どんな教育環境にいても、それができる子もいるだろう。

 でも、この点を特にリスペクトして、辛抱強く育んでくれている、娘の今の教育環境には感謝しかない。

 従順な「指示待ち労働者としての作業」が上手になる人間作りを目指す、東アジアの伝統的公教育を受け続けることは、今後はあまりにもリスクが高い。

親や先生の期待が最も危険

 自分が自分らしく、自分の好きを探求するスキルは、早く見つけたほうがいい。というか「野生」のままでいいのだ。

 一見、遊んでいるようにしか見えないが、好奇心の発露とは脳内が遊んでいる状態なのだ。それこそが、人間がAIなどのテクノロジーを使って、自分ならではの価値を社会に生み続けるベストな方法だ。

 とにかく、親や先生の期待というのが最も危険だ。我々親も、先生も子供より早く死ぬ。

 そして時代の変化にすでに取り残されている。そんな人間が、無責任に子供の人生に間違った期待を押し付けていいわけがない。

 これから、長い激変の人生を生き抜かなければならない子供たちにとっては、多大な迷惑である。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。