【解説】投資家が陥りやすい「手段の目的化」

筆者の経験は、FIREを目指す個人投資家にとって、非常に示唆に富んでいます。

私たちは資産を増やす過程で、往々にして「資産額を築くこと」そのものを最終ゴールにしてしまいがちです。しかし、筆者がわずか半年のFIRE生活で感じたように、経済的な自由を手に入れることが、必ずしも「生きる活力」や「日々の幸福感」に直結するとは限らないのです。

FIRE達成の「その先」にあるもの

投資の最終目的は、お金の心配から解放され、自分らしい充実した人生を送ることにあるはず。筆者にとっての「幸せの青い鳥」は、莫大な資産そのものではなく、「社会との結びつき」や「専門家として他者から必要とされること」にありました。

リタイアする「前」に培った強みや人間関係の中に、すでに幸せの源泉が存在していた、という気づきは重要です。

「人的資本」という、もう一つの資産

この物語は、私たち個人投資家が金融資産(お金)を増やすことと並行して、「人的資本(スキル・専門性・信頼)」を磨き続けることの重要性を示しています。

筆者が麻酔科医という強固な専門性を持っていたからこそ、FIRE後も社会と関わり、求められるという活力を得られました。

資産形成は、人生の選択肢を格段に増やすための強力な「手段」です。しかし、その手段を使って何を実現したいのか、自分にとっての「本当の幸せ」とは何かを問い続けることこそが、真に豊かな人生への近道となるでしょう。

※本稿は『50万円を50億円に増やした 投資家の父から娘への教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。