山田洋次が渥美清にした
たった1つのお願い
山田 結局、撮影所長に頼んで、もう1回撮らせてもらったんです。クローズアップのシーンだけ、バックのセットはほんの一部でいいからと、お金をなるべくかけないで作ってもらってね。
撮影:下村一喜
渥美さんに「もう1回だけ」とお願いしました。「僕がいいと合図を出すまで、顔を動かさないでくれ。合図で『うん』と頷いたら、僕がいいと言うまでまっすぐ見ていてください。ここにさくらがいますからね。ヨーイ、はい!」と。
その時は流石に、渥美さんは動かなかった。「はい、これでいいです」と、納得のいくアップが撮れたわけです。
黒柳 すごい。
山田 それで完成した映画が、会社の予想に反してヒットしたんですね。「テレビドラマなんかでやっているものが、映画で当たるわけがない」と当時はみんな思っていましたから。そうなると、あの頃はよくあったことだけれど、すぐにでも続編を作ってくれとなるんです。
黒柳 たしかに多かったですね、そういうの。
2作目の撮影の時には
もう何も言う必要がなくなった
山田 僕にしても、ちょっといい気持ちですからね(笑)。続編を作る決心をしたんだけれども、「また渥美さんとああいった格闘があるのか」と思うと、ちょっとつらい気がした。でもしょうがない、やるか、と。ところがね、2作目の撮影の時にはもう、僕が思うような芝居をちゃんとしてくれるんです。
山田洋次・黒柳徹子『渥美清に逢いたい』(マガジンハウス、2024年9月5日発行)
黒柳 はじめから?
山田 ええ。もう何も言う必要がない、余分な芝居はしないんです。びっくりしましたね。「この人は俺のことわかってくれているんだ」と思いました。
僕は本当に気持ちよく、楽に続編を撮影できたんですよ。二人の気がぴったり合ったというんですかね。渥美さんのそういうことができる魅力、見抜く賢さというかな。
黒柳 そこで我を張らないというところがね。
山田 そう。たぶん映画館に行って、自分で観て、すっかり理解したんでしょうね。こっちの方がいいとわかれば、もうスッと芝居を変えてしまえる。大変な才能ですよね。
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