留守番電話に残っていた
最後のメッセージ
黒柳 最後にね、お電話をいただいていたんですよ。留守番電話が残っていたんです。私たち、ずっと前から遊ぶ約束をする時にもお互いに留守番電話を入れ合ったりしていましたから、何気なく聞いたんですけれど。
山田 なんと残っていましたか?
黒柳 「お嬢さん、お元気ですか。僕はもうダメです。元気でいてください」と。
『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』の撮影中、大船撮影所にてⒸ松竹
山田 そうか。
黒柳 私、それを聞いたときにね、本当だと思わなかったんです。いつもそんなこと言っていたから、また冗談みたいなことを言っているんだなと思って、すぐに連絡を返さなかった。それが本当に、最後の電話になりましたね。
山田 そうか。渥美さん、本気で言っていたんだ。
黒柳 本気で言っていたんです。でも、区別がつかなかったです。
山田 区別がつかない徹子さんが、渥美さんは好きだったんですよ。
黒柳 そうかな。
山田 きっとね。だから気楽にそういうこと言ったんですよ、逆に言えば。
遠くに渥美清が立っていて
まだこっちを見ていた
黒柳 山田監督は、最後にお会いになったのは?
山田 渥美さんとはいつも1本撮り終わると「次の春にまた会いましょう」と約束をして別れていたんです。その春は僕と、プロデューサーと、倍賞千恵子さんもいたかな。何人かで渥美さんに会いに行ったんですよ。その時、わりに元気でね。いつものように小川軒で一緒にご馳走を食べて、いろんな話をしました。渥美さん、その頃にもまだ映画なんかをよく観に行っているんです。驚きました。
黒柳 ええ。
山田 渥美さんとは店の前で別れてね。僕らは並木通りの坂を降りながら、「渥美さん、まだやる気あるよ。もう一本できそうじゃないかな」と話していたんです。
その時に、何気なく後ろを振り返ってみた。レストランからはもうだいぶ離れているんですよ。だけどその遠くに渥美さんが立って、まだこっちを見ているんですよ。僕たちは、慌てて手を振って……。だけど、どうしてこっち見ていたんだろうと。後で思えば、これが最後だったんです。
黒柳 渥美さん、ご自分でわかっていたんでしょうか。
山田 僕や倍賞さんに会うのは最後になると思っていたのかな。なんだかそんな気がしますね。それからしばらくして急に入院して、8月に亡くなった。







