子連れクマに至近距離で遭遇
反射的に「コラー!」と大声

「ぱっと見た瞬間、子連れだとわかったんです。その時点で、もう今日は襲われると覚悟しました」

 目の前で子グマが木に登った。つまり母グマは逃げずに戦闘態勢に入ったということだ。母グマは、子を守る本能が極めて強く、子グマに近づくものはすべて敵とみなし、猛烈に攻撃してくるおそれがある。

 次の瞬間、佐藤さんは反射的に「コラー!」と大声を上げてしまった。

「結果的に、私の方から威嚇してクマを刺激したんじゃないかと言う人もいます。でもあの距離で子連れとわかった時点で、もう冷静ではいられなかった。でも、よく考えたら子連れグマですからね。黙っていても、どのみち襲われていたでしょう」

 手にしていた杖をたたきつけ、戦うしかないと思った。その直後、母グマは木の陰から回り込み、まっすぐこちらに向かってきた。

「お互いテンパってました。静かに後ずさりなんて、とてもできなかった」

 クマは何度も突進してきた。一般的にクマは、最初の一撃は前脚で、続いて牙で噛みついてくることが多い。佐藤さんも棒を振り上げた瞬間、間合いに入られ、左腕に噛みつかれた。

佐藤さんのヘッドカメラが捉えたクマ襲撃の瞬間佐藤さんのヘッドカメラが捉えたクマ襲撃の瞬間 写真:佐藤誠志

「あぁ終わりだ」と観念しかけた瞬間、クマはぱっと身を離し、去り際に左足の腿(もも)を爪で引っかいた後、森の奥へと走り去っていったという。なぜ逃げていったのか、その理由はわからない。

 山をよく知る人ですら、こうした親子グマの状況では冷静な判断を保つことは難しい。その一瞬の判断が、生と死を分けることもある。そのためには「絶対にしてはいけないこと」を知り、備えておくことが大切だ。