動物は人の心の状態に敏感
人間が慌てれば事態を悪化させる

 クマは本来、臆病で人を避ける生き物だ。だが、その臆病さゆえに、人間との遭遇など想定外の出来事に出くわすとパニックを起こし、攻撃に転じることがある。だからこそ、こちらが興奮させないことが肝要だ。

「クマに限らず動物は人の心の状態に敏感です。『この人は慌てている』『落ち着いている』といった人間の気配を、クマも感じ取っているんです。人間が取り乱せば、その不安がクマにも伝わり、事態を悪化させてしまうことがある」(佐藤さん)

 距離があるうちは、目を見ながら静かに後ずさりしてその場を離れるか、クマの方に去ってもらうこと。決して挑発せず、互いに逃げ道を確保することが生き残る最善策だろう。クマに勝つ方法はない。だが、襲われない方法はある。

 では子連れのクマに遭遇した佐藤さんも冷静さを保てば、攻撃を免れたのだろうか。

子連れに遭遇したらほぼやられる
地面に伏せて首を守る防御姿勢を

「子連れに接近してしまったら、ほぼ無条件でやられる」と、モリさんと佐藤さんは口をそろえて話す。

 佐藤さんは山菜採りの際、ベストの胸ポケットにクマよけスプレーを入れておくというが、あくまで「保険」だという。

佐藤さんの山菜採りの装備一式佐藤さんの山菜採りの装備一式 写真:佐藤誠志

「スプレーには暴発しないよう、ストッパーがついています。とっさにそれを外し、風向きを読んでからクマに噴射するなんて至難の業ですよ」(佐藤さん)

 そのため、地面に伏せて両手で首を守る防御姿勢をとりながら最小限の怪我(けが)でしのぐしか選択肢はない。佐藤さんは親子連れのクマに遭遇したとき、ヘルメットをかぶっていた。今はこの出来事を教訓に、クマ対策の意味でもヘルメットは欠かせないという。