新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、推薦入試が教育格差を広げているのかについて解説します。

推薦入試Photo: Adobe Stock

「どうせお金持ちに有利な入試でしょう?」

私は推薦入試の専門家として、ABEMA Primeをはじめとする様々なメディアに出演しています。その中で、必ずといっていいほど出演者から投げかけられる質問があります。

それは、「総合型選抜・学校推薦などの年内入試は、結局お金持ちの子どもがやるものであり、教育格差を助長しているのではないか」というものです。

確かに、総合型選抜や学校推薦では、小さい頃からの習い事や留学、ボランティア活動、海外経験といった「特別な体験」が評価対象になるケースが多いです。そのため、経済的に裕福な家庭の方が有利である、体験格差が教育格差を広げてしまう、という批判は根強く存在しています。

本当に「お金持ちだから有利」なのか?

この批判について、私は常に「一面では正しいけれど、本質を捉えていない」と感じています。理由は大きく2つあります。

1.お金をかけただけでは合格できない

まず、総合型選抜や推薦入試は、「親がお金をかけたから突破できる」ような単純な入試ではないということです。

大学の先生方は、面接でのやりとりを通じて「その経験は本人が主体的に取り組んだものなのか」「親が用意したものをただこなしただけなのか」を見抜いてしまいます。実際に推薦入試を指導をしていても、そこは非常に強く実感します。海外経験や特別な習い事があったとしても、本人が自ら考え、行動し、学びに変えていなければ合格にはつながりません。

つまり、「体験」そのものよりも、その体験をどう自分の言葉で語れるか、どんな学びに結びつけたかが評価されるのです。

2.一般入試も「お金で有利」になる

もうひとつは、一般入試も結局はお金をかければ有利になるという点です。中学受験だけでも、年間にかかる塾代はおよそ100万円。6年生までで合計400~500万円と言われています。そうして中高一貫の名門校に入った生徒の方が、一般入試での合格率が高いのは当然です。

さらに家庭教師や個別指導、最新の参考書やAI教材、夏期講習や合宿型の特訓……。例えば最近では大手進学塾enaが22泊に及ぶ長期合宿を実施していることが話題になりました。これは1か月近く勉強漬けの生活を送り、徹底的に学力を鍛え上げるもので、当然ながら相当の費用がかかります。こうした環境に参加できるかどうかが、子どもの合否に直結することも少なくありません。

言ってみれば、一般入試もスマホゲームの「課金システム」と大差ありません。お金を投じれば、それに見合った「強い武器」を手に入れることができる。推薦入試だけが不平等なのではなく、どちらの入試方式にも同じ構造があるのです。

平等に“不平等”な入試制度

私は、だからといって「推薦入試をもっと拡大すべきだ」と主張するつもりはありません。むしろ、一般入試にも推薦入試にもそれぞれの役割と限界があると考えています。

ただ一つ言えるのは、一般入試も推薦入試も「平等に不平等」であるということです。入試の形式によって「こっちだけが不公平だ」と単純に切り分けるのは現実を見誤ります。

不都合な真実かもしれませんが、この点を理解することが、これからの入試制度や教育格差の議論において欠かせない前提になると私は思っています。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)