チームが疲れているように見える……。みんな一生懸命に働いているし、能力が足りないわけでもない。わかりやすいパワハラがあるわけでもなければ、業務負荷が過剰になっているわけでもない。だけど、チームは疲弊するばかりで、思ったような成果を出せずにいる……。なぜだろう? そんな悩みを抱えているリーダーが数多くいらっしゃいます。
その原因は、心理的リソースの消耗かもしれません。心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。
櫻本真理さんの初著作『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』では、そのための知識とノウハウをふんだんに盛り込んでいます。本連載では、その内容を抜粋しながら紹介してまいります。
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リーダーが「心理的リソース泥棒」に陥りやすい理由
「心理的リソース泥棒」――。
これは、意識的か無意識的かを問わず、相手の「心理的リソース」を理不尽に奪うことを指す私の造語です。
みなさんの周りにもそういう人はいないでしょうか。
ネガティブな発言ばかりして、周囲に気を遣わせる人。平気で約束を破ったり、ルールを守らなかったりしてがっかりさせる人。頼んでもいないのに、“上から目線”でアドバイスをしてくる人……。
こういう人がいると、なんとなくこちらも落ち込んだり、イライラしたりしてしまいます。相手の行動によって、心理的リソースが奪われてしまっているのです。
そして、もしもリーダーがこの「心理的リソース泥棒」だと、チームの成果を出すことは難しくなります。リーダーは、チームのなかでも最も周囲に対して大きな影響を与えることができる存在であり、そのリーダーがメンバーの心理的リソースを奪い続けていれば、当然ながら成果を出すために使える心理的リソースを犠牲にすることになるからです。
ところが、実は、リーダーこそが「心理的リソース泥棒」に陥りやすいのが現実です。なぜなら、リーダーは「ランク」をもっているのに、そのことに無自覚であることが多いからです。
ランクとは、社会的地位・肩書き・権限・スキルなどの公式・非公式の上下関係を意味するプロセスワークの用語です。リーダーという役割は、望むと望まざるとにかかわらず「ランクをもっている」立場であり、メンバーにとって「上位」に位置する存在なのです。
そして、このランクは、自分が思っている以上にメンバーとの関係性に影響を与えています。特に、組織においてより高いランクをもつ人は、ただ「ランクが高い」というだけで、相手を抑圧したり、プレッシャーを与えてしまうことがあります。
ところが、多くのリーダーは、自分がそのような影響力をもっていることに無自覚であるがゆえに、何の気なしにかけた言葉が相手にとってはプレッシャーになり、心理的リソースを奪ってしまうといった現象がしばしば起きているのです。
メンバーに及ぼしている「影響力」を、リーダーは自覚しなければならない
どういうことか?
私の失敗談を紹介しましょう。私自身は、もともと「わかりやすく」威圧的な態度をとるタイプではないと思っていました。大声で怒鳴ったり、失敗したメンバーを意図的に厳しく詰めたりしたこともありません。しかし、そんな私でも、「ランクへの無自覚」による失敗体験がたくさんあります。
たとえば、こんなことがありました。
あるとき、私があるメンバーに「前に作成してもらった、A社への提案資料をメールで送ってもらえないですか?」とお願いしたときのことです。
その資料の作成をお願いしたのは数週間前のことでしたから、当然、もうできていると思い込んでいたのです。ところが、そのメンバーは「あ、その資料はまだできてないんですよね……」と回答。それを聞いた瞬間、とっさに「え? まだできてないの?」と素で反応してしまったのです。
その反応に、深い意味はありませんでした。当然できていると思っていた資料がまだでき上がっていないと聞いて、シンプルに驚いただけのつもりでした。
しかし、そのメンバーはすごく申し訳なさそうな表情になって、A社の担当者との調整が難航しているために、提案資料をまとめられていないという事情を説明してくれました。私はその話を唖然としながら聞きながら、「遅れてはいるけれど、きちんと仕事を進めてくれているんだな」と気持ちを立て直していたつもりでしたし、メンバーを責めたい気持ちはありませんでした。
ところが、そのとき、横で聞いていたもうひとりのメンバーが、「真理さんの『まだできてないの?』って圧があります。やめてください」と言いました。A社との仕事を担当しているメンバーに「助け舟」を出したかったのだと思います。
私は「えええええ~? ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……、私のそういうところがよくないよね!」とおどけてみせたのですが、同時にこんな考えも浮かんできました。
「いや、でも、もともととっくにできてるはずの資料なわけだし、あまりにも遅れすぎじゃない? それに対して『まだできてないの?』ってただの事実確認じゃない? それで圧とか言われたら、もはや私は何も言っちゃダメなの?」



