
タエさま、パイナップルを切る
習い事をもう一度はじめたいというトキに「あなたも大人になりましたね」と返すタエの表情や口調に、実の母の思いがにじんでいるような気がした。
トキはお土産にパイナップルを持ってきた。
殻のように硬い皮のパインをどう切るか。考えるトキとタエ。
縦か横か。
タエ「三枚おろしは?」
トキ「三枚おろしは魚ですね」
お茶を出せるようになったし、たぶん、食事も作っていると思うタエだが、やっぱりまだまだ世間知らずのようである。
輪切りにして食べてみるとおいしい。食べたことのない味への驚きと美味しかったことへの喜びを北川景子と高石あかりがくるくる変わる表情で演じる。キャスト自身はパイナップルは食べたことがあるだろうから、この新鮮で素朴な喜びを再現できるとはすばらしい。ふたりとも少女のように愛らしい。
サワ(円井わん)とトキの自虐的なやりとりもそうだが、無垢(むく)な楽しさが漂うのが『ばけばけ』の魅力。見ている人を笑わせようとするのではなく、そこに生きている人たちがその瞬間をほんとうに楽しんでいるように見えるのだ。
自己完結といえばそれまでだけれど、演じているのではなく、リアリティショー的な面白さも感じさせてくれる。時代劇でそれをやるのはなかなかチャレンジングだろう。そういうところが『ばけばけ』の意義であるようにも感じる。
トキはタエに会えたこと。この間までのわだかまりが解けたこと。パイナップルを一緒に食べておいしかったこと……。いろいろうれしいことがあって、ついついスキップする。相変わらずおぼつかなく、ケンケンパみたいになっているが、楽しいとなんだか体も軽やかに動く。スキップの真髄はたぶん、それだ。楽しさだ。
ヘブンの家の前では、ヘブンが相撲を見てきたところで、ご機嫌で相撲のマネをしている。
パイナップルはヘブンがお土産にとトキに渡したものだったようで、「あげな甘くて黄色いものを食べたのははじめて」とトキはヘブンに礼を言う。
「はじめて」「おもしろい」とヘブンは上機嫌。はじめての経験はいかにおもしろいか、味をしめたヘブンはならば! と人力車にトキを誘って乗る。
だが、トキは人力車ははじめてではなかった。







