パイナップルのヘタを髷に例えて
元夫の銀二郎(寛一郎)の人力車に乗ったことがあった。それははじめてで、楽しかった思い出だ。
「はじめてない?」
「すいませんはじめてないです」
ヘブンの喜びに水を差して申し訳ない気持ちと、これでヘブンの気分を害したらクビになるかもという不安と、幸せだった記憶が蘇って切ない気持ちなどがまぜこぜになっていることが想像できる高石あかりの表情。
ヘブンは自分の好意が無になって憤慨するかと思いきや、事情を錦織(吉沢亮)が話そうとすると、「思い出はべらべらと話すもんじゃありません」とトキの思い出を察する。
やたらと理不尽に怒るわりに、こういうところは繊細だ。
さらにヘブンの優しさにトキは気づく。
はじめてアイロンを使ったところ、うっかりシャツを焦がしてしまった。
今度こそ「クビだ」と平謝りするトキに、ヘブンは「ケガナイ?」と真っ先に思いやってくれた。
自分の気持ちにも正直な分、他人の気持ちも慮れる人なのだろう。この感じがやっぱり『美女と野獣』味あるなあと思う。
それにしてもトキはなぜ調理は免除されているのか。旅館で作ってもらうほうが合理的だという考え方だろうか。ヘブンは、料理がうまいとか家庭的な才能を優先したいわけではなく、彼が好む日本の伝統文化を知っている人物を求めているのだろうと推察できる。だから、トキが生け花のたしなみがあることは、これぞ士族の娘を雇った意味として満足なのだろうと思う。
さて。今度は実家でパイナップル。勘右衛門(小日向文世)はパイナップルを髷(まげ)だと考え「パイナップルはわしじゃ」と言って食べるのを拒む。
「松野勘右衛門、討ちとったり!」と、髷に見立てたへたを切り取ってひと騒ぎ。
箸が転がってもおかしい年頃の人は松野家にひとりもいないのに、パイナップルひとつでこんなに楽しめるのは、才能である。









