書店の本棚写真はイメージです Photo:PIXTA

戦争下での検閲、現在のマーケット至上主義…出版業界は「危機」にさらされ続けている。そんな中、問われるのは出版社や編集者のあり方だ。AIがますます進化する現代において、編集者にしかできない役割とは。「一冊入魂」の出版社・ミシマ社の代表である著者が、「仕事としての出版」の現実とこれからを語る。※本稿は、編集者の三島邦弘『出版という仕事』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

出版業界が危機に
さらされる原因

 編集者の作品に対する責任はいかほどか。

 この問いを考えるにあたり、質問を次のように変えてみましょう。

 出版の仕事がもっとも危機にさらされるのはどういうときか?

 皆さんの答えがとても気になります。知りたいです。

 私が問われたなら、迷いなく、次のように答えるでしょう。

「表現の自由が制約されるとき」

 戦争下での検閲はその最たるものです。現代日本において、国家による検閲はありません。が、検閲をしている国もあります。国家検閲を経て、了承されたものだけが発刊される。

 実際、私の会社の刊行物でも、ある国で翻訳出版が決まったものの、検閲を経た結果、内容の半分以上に黒塗りが入りました。つまり、削除指令が出たのです。それでは内容が大幅に歪められるので、残念ながら、その国での発刊を断念したことがあります。

 日本では、国家による露骨な検閲はないものの、「忖度」による検閲のような行為はある気がします。「この表現は、国からクレームがくるんじゃない?」。テレビ局では少なくない頻度でこういうことがあるようですが、出版社において、このような忖度はほぼないと信じたいです。あってはいけません。これは、はっきりと言っておきたいです。