偶然か意図してのことかはわかりませんが、西友がやっていることはトライアルGO潰しです。あっちよりもうちのほうがお得だという対抗価格を打ち出しているのです。

 サテライトのほうが基幹店(スーパー)よりもコストが高いのは当然です。しかし、それを販売価格に反映することや、基幹店のほうでさらに安く販売するルールが定着すると、近隣の消費者は「サテライト店で買い物するよりも基幹店で買ったほうがお得だ」という感覚が定着します。つまりサテライトはすたれていくことになります。

 実はこの競合現象、経営戦略の専門家の立場ではよく見る光景です。企業買収で一番難しいのが買収後の統合なのですが、これが通常「うまくいかなくてあたりまえ」なものなのです。

身内同士の「競争」で
漁夫の利を得るのは?

 トライアルの歴史を見ても西友ほどの大きな相手を買収する経験は初めてといっていいでしょう。小売業の歴史的にみればバブル時代に一時代を築いた西友と、異業種から参入して今世紀に入って成長し始めたトライアルでは「格」が違います。口では絶対にそう言いませんが、「トライアル、失敗しろ!」と怨念を抱く関係者がいても不思議はありません。

 トライアルの経営陣は若いですから、この課題を正面突破しようとしているように感じます。「お互いなれ合うのではなく、身内同士でも競争しなければ」と正論を言われれば「それでいいよ」と応じてしまうかもしれません。

 実際、西友のカップ麺売り場の最安値が118円のところを、トライアルGOでは急ごしらえの売り場を作ってサンヨー食品のカップスターを107円で特売することで西友の安売りに対抗しているように見えます。このようにミクロでは対抗心バチバチになるとして、俯瞰して「それでどうなるのか?」ということが重要です。

 故事成語の漁夫の利と同じで、西友とトライアルGOが対抗していることで最も利を得るのがイオンです。このまま「2年間頑張ったけどダメだった」「やはりサテライト業態は割高だね」みたいな展開になってトライアルが撤退すれば、イオンにとって首都圏の競争地図は安泰です。「そうなる確率が5割ぐらいあるんじゃないかな?」というのが今の段階の私の予測です。