5頭の犬は先を争って駈けていった。まるで、自分たちの行き先をすでに知っているかのような走り方であった。

 犬たちも、いつもと様子が違っているのを感じていたことであろう。日頃は放し飼いにされているのに、ここ2日間は繋がれてばかりいたし、今朝の明け方近くには、聞きおぼえのある銃声を耳にしていた。

書影『羆吼ゆる山』(今野 保、山と渓谷社)『羆吼ゆる山』(今野 保、山と渓谷社)

 私がライフル銃を手に林に足を踏み入れると、すぐにボス犬のノンコと四郎が迎えにきた。上の方で他の犬たちが激しく吠えていた。

 そこは、開運号を埋めた穴から斜面を少し上ったトドマツ林の中で、この辺りではそこだけが平らになっている。

 熊はその平地の真ん中に倒れていて、すでに息絶えていた。弾丸は、左の肩のすぐ下から入り、右の足の付け根の骨を砕いて大きな貫通孔をあけていた。内臓の急所にも、致命的な損傷を与えたものと見受けられた。

 この、頭から背にかけての毛並みが明るい黄金色に光る大きな牡(おす)の羆は、私が誰の手も借りずたった1人で撃ちとった、最初にして最後の獲物となった。