昼過ぎから夕方までたっぷり眠ったせいか、今夜は睡魔に襲われることなく、時はすみやかに過ぎていった。
明け方は近いと思われたとき、静まりかえった夜気をついて、何かが近づいてくる異様な気配がした。“来たな”そっと手にしたウインチェスターのライフル銃を、安全装置を押し戻して膝の上に置いた。
ボキッと、枯枝を踏み折ったような鈍い音がした。間違いなく、近づきつつあるものがいる。私は耳をそばだてて、さらに気配を窺った。
しかし、それっきりどんな物音も聞こえなくなり、自分の胸の高鳴りだけが耳についた。
全身がぼーっと熱を帯びたかのように火照っていた。今まで何度か熊を撃ったことはあったが、そのときはいつも傍らに父がいた。父の指示に従って、迷わず撃つことができた。だが、今はすべてを自分1人でやらなければならない。やり遂げなければならない。
両眼をしっかりと見開いて、穴の周辺に目を凝らした。暗闇の中で何かが揺れ、山裾の一角が黒っぽくかすんで見えた。“来たか。あれが熊か”私は一度目をつぶり、そうしてゆっくりと瞼を開いた。
猟犬たちと見つけた熊は
すでに息絶えていた
“見えた”穴の中に頭を突き入れ、音も立てずにおそらく内臓を貪り喰っているのであろう熊の姿が浮かび上がった。
そっと持ち上げたライフルの銃床を肩に付け、黒い姿の真ん中に狙いを定めた。カーンと、無煙火薬特有の乾いた音が未明のしじまを切り裂き、一瞬後、熊が声も上げずに走り去った。
確かに弾が当たった手応えはあった。だが、待ち場を下りて跡を追うには暗すぎるし、熊が完全に死んでいるという確信もなかった。私は、夜が明けそめるまでの1時間あまりを、木の上でじりじりしながら待った。
空に青味がさし、この暗い山裾の林にもようやく朝の兆しが見えてきた。木々の枝葉がその彩りと輪郭を取り戻した頃、私は待ち場を片づけてから木を下り、家に戻って犬の綱をほどいてやった。







