そりゃワークマン売れるワケだ…ニッチ企業が大成功した「トガリ」の秘密『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第38回ではニッチなニーズに特化して成功したある企業について解説する。

起業家の反省「バカ…今頃気づくなんて…」

 Tシャツ専門店「T-BOX」事業を手がける主人公・花岡拳たち。東京・渋谷に出店した1号店に次いで、新宿に2号店を出店すべく奔走しているが、その方針の違いから、幹部社員である日高功が会社を辞めてしまう。

 だが日高は退職後、T-BOXの客や、T-BOXのTシャツを着た人々を街で見かけるようになる。そして少しずつではあるが、T-BOXが人々の中で評判になりつつあることを実感する。ほかの幹部メンバーとも話し、「もう一度この船に乗ってみたいと思った」と語った日高は、花岡の許可も得て、会社へと戻るのだった。

 日高が戻って間もなく、花岡は特殊な素材を入手する。Tシャツ製造を取り仕切る片岩八重子(ヤエコ)も「珍しい質感」と語ったその素材は、綿100%ながら伸縮性があり、シャリ感(ハリはあり、サラサラしている感触)のあるもの。

 取引のある生地メーカーが医療関係者向けに開発したが、規格から外れてしまったことから、ディスカウントしてでも買い手を探しているということだった。

 ヤエコは伸縮性のある生地は縫製が難しいと商品化に消極的だったが、ビジネスチャンスと考えた花岡のプッシュもあって、商品開発に着手する。花岡はすぐにでも商品を店舗に投入できるよう、ヤエコに「レディースのみ。年齢層や客層もグっと限定して…」とピンポイントのターゲットに向けた商品を要望するのだった。そこで花岡はあることに気づく。

「そうか…そうだった。バカ…今頃気づくなんて…」

一点突破の“とがり”で新しい市場を切り開いた企業とは

漫画マネーの拳 5巻P49『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 花岡はこのあと、以前に作成した人気タレント・中原綾名の体形を再現したボディを持ち出し、新商品を若い女性に特化したデザインにするよう指示する。

 その結果は漫画で読んでいただきたいが、現実世界でもターゲットをピンポイントに絞ることで、熱狂的なファンを生み出した企業は少なくない。

 その一例がワークマンだ。もともと職人向けの作業服に特化した専門店チェーンを展開していた同社は、安価で耐久性が高く、高機能なウェアや安全靴などを展開してきた。顧客は男性の職人層がほとんどの、「限られたターゲット」向けのビジネスを展開してきた。

 そこで培った機能性を武器に、女性向け特化やカジュアルウェア全般を展開する新コンセプトを打ち出していった。雨に強い、汚れに強い、暖かい、コストパフォーマンスがいい——本来は職人のために磨いてきた“とがり”を、そのまま一般消費者向けアパレルに転用したわけだ。

 結果として若い女性やファミリー層をも取り込んだワークマン。それは愚直に本来の強みを尖らせた結果とも言える。

 直近では、安価なリカバリーウェア(疲労回復を訴求する衣料)も話題で、業績の上方修正も発表している。このリカバリーウェアも、4年前から職人向けに提供してきた機能を広いユーザーに展開した結果なのだ。

 出張で秋田に向かう花岡は、電話で新商品の反響を知ることになる。そこからの快進撃が始まるが、話はそれだけでは終わらない。

漫画マネーの拳 5巻P50『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 5巻P51『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク