スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「おまえ、ノロいなあ。だから出世しないんだよ」イラッとする一言に頭のいい人はどう返す?Photo: Adobe Stock

Q:「仕事がノロい。だから出世しない」と言われます。
どう返せばいいですか?

――友人の悩み相談をさせてもらってもいいですか。彼はマルチタスクが苦手で、一度に1つずつ仕事を進めるタイプなのですが、職場に嫌味な人がいて、ちょいちょい「仕事がノロい」だの「だから出世しない」だのと言ってくるそうです。こういうときってどう返せばいいと思いますか?

栗木さつき氏(以下、栗木):そんな人、いるんですか!? でも程度の違いこそあれど、どこの職場にも1人くらいはイヤな人っているかもしれませんね。

 そもそも仕事って同時進行がテキパキできるほうが偉いみたいなイメージがありますよね。

 でも、『一点集中術』が最も重要視しているのは、まさにその「マルチタスク信仰」へのアンチテーゼなんです。本書に書かれていますが、私たちは「そもそも、マルチタスクは不可能である」という事実から議論を始めなければなりません。

 人間の脳は同時に複数の情報処理を深く行うことはできません。マルチタスクというのは、実際にはタスクとタスクを高速で切り替えているだけです。この切り替えによって集中力とエネルギーが消耗し、結果的に仕事のパフォーマンスが低下します

 目の前のことに一点集中せず複数のタスクを追っていると、むしろ仕事が遅くなってしまうんです。

――日本では「忙しく働いていること」自体が評価される傾向がありますよね。

栗木:そうですよね。そのプレッシャーのせいで、非効率が助長されている部分もあると思います。本書の著者は、日本向けに序文を書き下ろしてくれていますが、下記のように書かれています。

 日本の仕事文化では、集中力を分散してマルチタスクをこなせる人こそ有能だと見なされる場合も多い。では、四六時中忙しいわけではない社会人がいるとしたら? その場合はたいてい、忙しいふりをする。体裁をとりつくろうのだ。
 ビジネス向けコミニュケーションアプリ、スラックのレポートによれば、忙しそうに見せるために「無駄な仕事」に時間を費やしている人が多い国のトップ3に、日本はランクインしているという。――『一点集中術』より

 多くの人が「いつも忙しくしていなくてはいけない」という強迫観念に囚われています。さらに言えば、多忙をアピールすることは、自分の重要性を証明する手段にもなっています。

「多忙」であることと「自分は重要な人間である」という認識には、強い相関関係がある。「過労」と「睡眠不足」を嘆いてみせることで、自分が必死にやっていることを証明したいのだ。――同書より

「仕事がノロい」と言ってくる人はこうした「多忙=重要な人間」という誤った価値観を持っているということなんだと思います。

イラッとする言葉にどう返すのがベストか?

――では、「ノロいなあ。だから出世しないんだよ」と言われた場合、どう返すのが最善だと思いますか。

栗木:身も蓋もないことを言えば、そんなことを言ってくる人はまともではないので、こちらもまともに相手をしないことが最善の対応です。「ご指摘ありがとうございます」と言って、やるべきことをやり続ければいい。

 相手がこちらの仕事を待っているのであれば、これとこれに対応していてこれくらいの時間がかかるので、それに対応できるのはいついつになりますと、淡々と答えればいいんです。

 心のなかでは「価値の高い仕事に順番に一点集中しているから、マルチタスクという名の非生産的な行動は取りません」と宣言して、自信をもって対応することです。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)