欲しいものをすべて手に入れた瞬間、人は“幸せを感じる力”を失い始める――。一見逆説のように聞こえるこの指摘こそ、“幸福の核心”となる。そう語るのは、お金の使いこなし方を解き明かした世界的話題作『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』だ。今回は、本書の一節を抜粋しながら紹介していく。
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良い人生とは、必要なものすべてと、欲しいものの一部を持つこと
万人に当てはまる幸せな経験というものはない。どんな幸せな経験も、その実態は「期待と現実のギャップ」だ。それは、あなたが今手にしているものと、過去に手にしていた、あるいは期待していたものとの差なのだ。あなたを幸せにするのは、物の値段ではなく、その「対比」なのである。
それを踏まえて、お金を使うときに心に留めておくべき重要なことは、ごくわずかしかない。
そのひとつが、「良い人生とは、必要なものすべてと、欲しいものの一部を持つこと」だ。欲しいものすべてを手に入れたら、すでに持っているものの価値を感じられなくなる。
聖職者のウィリアム・ドーソンの言葉に、こんな一節がある。
富についてほとんど知られていないのは、お金に関するあらゆる喜びは、倹約が不要になった時点で終わるということだ。ローンを組まずに欲しいものを何でも買えるようになった人は、購入したものにたいした価値を感じなくなる。
何かを得るために貯金に励んでいるときの期待感や、思いがけず手に入ったときの驚き、以前は買えなかったものが今は買えるようになった喜び――そうしたものが、何かを買うことに、それ以上の価値を生んでくれる。
(本原稿は、『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』(モーガン・ハウセル著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)





