慶應義塾高校107年ぶりの甲子園制覇を陰で支えた「野球と関係ない」トレーニングとは

2023年、学力全国屈指の難関校である慶應義塾高校が、107年ぶりに夏の甲子園を制した。その躍進の裏には、技術の向上や革新的な戦術ではなく、あるトレーニングの存在があったと森林監督は明かす。ピンチで硬くなりがちだった選手たちを躍動させた、名監督のチームマネジメントとは?※本稿は、慶應義塾高校野球部監督の森林貴彦『成長至上主義のチームデザイン――成長こそが慶應の野球』(東洋館出版社)の一部を抜粋・編集したものです。

夏の甲子園で優勝できたのは
メンタルトレーニングがあったから

 2023年に夏の甲子園を制したチームは、「個々ではなかなか解決できないから、みんなで決めたことを徹底しよう」という考え方が浸透していました。技術面や戦術面だけでなく、メンタル面では、吉岡(編集部注/吉岡眞司。慶應義塾高校野球部のメンタルコーチを担当)さんに教わったことを習慣化して継続していこうという意識が特に強かったように思います。

 目に見えて心が整ってきたのは、2022年、秋の関東大会でベスト4に進出した頃でした。

 後に選手に話を聞いたところ、この頃には選手間でも「メンタルトレーニングの成果が出てきた」「心が揺れ動いたり、ミスに動じたりすることが少なくなった」と実感できていたようです。

 代表的な例を挙げると、この年に背番号11をつけた松井喜一投手は、プレッシャーに弱く、ピンチの場面で逃げ腰になる傾向があり、本人もそれを自覚していました。

 しかし、「感謝のトレーニング」(編集部注/練習の中で、それぞれが感謝すべきことを見つけて声に出して「ありがとう」と言うトレーニング)を始めとするメンタルトレーニングに取り組んだことで、窮地に追い込まれても前向きにプレーできるようになったといいます。