マウンド上の松井投手を見ていても、以前ならちょっと打ち込まれると曇りがちだった表情に余裕ができたのがはっきりとわかりました。

緊張より楽しさが勝って
伸び伸びとプレーできた

 笑顔が特に取り上げられることの多かったキャプテンの大村昊澄選手も、本来は緊張が強いタイプでした。今できることにフォーカスして、集中する力はもともともっていましたが、それがプレッシャーになり、過緊張になることもありました。

 しかし、「この舞台で野球ができることへの感謝」を意識することで、「負けられない」「勝たなきゃ」というプレッシャーよりも、「プレーできる喜び」や「感謝の気持ち」が大きくなり、自然と笑顔が見られるようになったのです。

 大村選手をはじめとする選手たちは、不自然に、無理やり笑顔をつくっているわけではなく、物事をポジティブに捉えるトレーニングを習慣化したからこそ、どんなときでも感謝や前向きな要素を見つけて笑えるようになっていったのです。

 このチームでは、関東大会ベスト4、翌年のセンバツ出場、その初戦で前年の夏の覇者、仙台育英高校に延長10回、1対2と敗れはしたものの善戦するなど、勝敗の結果も伴う形で成長をしていきましたが、メンタルトレーニングでの「良い結果」は、試合に勝つことだけではありません。

 組織としてコミュニケーションが良くなることも「良い結果」ですし、感謝の心をもって、いろんなことに気付けるようになることも積み重ねの末に得られた「良い結果」です。

 試合の勝敗に直接結びついたチームもあれば、必ずしもそうではなかったチームもありますが、勝ったからでではなく、心の成長を繰り返しながら、メンタルトレーニングを「自分たちが進めていくべきものだ」「大事にすべきものだ」と特に強く思っていたのはやはり、2023年の優勝メンバーたちだったように思います。

専門家の力を借りることで
選手の選択肢が広がった

 私の性質もあるのかもしれませんが、「気になる選手」として名前を挙げるのは、体力的や技術的な問題を抱えている選手よりも、メンタル面でのアプローチが必要だと感じた選手が多くなる傾向があります。