甲子園優勝の慶應義塾高校野球部が、「学生コーチ」を置く本当の狙い写真はイメージです Photo:PIXTA

2023年に甲子園を制した慶應義塾高校野球部には、OBの大学生が後輩を指導する「学生コーチ」の伝統が息づいている。一見すると、100人を超える部員を監督1人では見きれないがためのサポート体制だが、学生コーチが存在する理由はそれだけではない。森林監督によれば、指導を任された大学生たちも、学び、成長していくのだという。※本稿は、慶應義塾高校野球部監督の森林貴彦『成長至上主義のチームデザイン――成長こそが慶應の野球』(東洋館出版社)の一部を抜粋・編集したものです。

大学生が高校生を指導する
慶應野球部の伝統

 慶應義塾高校野球部の他校との違いを象徴しているのが、慶應義塾高校野球部OBにして、現役の慶應義塾大生でもある学生コーチの存在です。

 どの学校でも、OBが練習に参加したり、コーチ役を買って出たりすることはあると思いますが、慶應義塾高校野球部では学生コーチが高校生の指導に当たる伝統が脈々と受け継がれてきました。

 慶應義塾高校野球部のホームページには、上田誠監督就任以降の歴代学生コーチの名簿があります。伝統はその以前から受け継がれていますが、上田監督の時代に、学生コーチの重要性がさらに増したと言われています。

 実はこの名簿の中には私の名前もあります。慶應義塾高校野球部でプレーした後、慶應義塾大学に進学した私は、大学では野球部に所属しませんでした。しかし、上田監督のもとで4年間、学生コーチとして後輩たちとグラウンドで共に過ごす選択をしたのです。

 このときの経験は、指導者としての現在の私に大きな影響を与えてくれました。