その限界を補ってくれるのが学生コーチです。慶應義塾高校野球部出身である彼らは、部内のことをよく理解しています。
部の掲げる『エンジョイ・ベースボール』のことも、言葉や知識としてでなく、自分の身体と心で体感し、野球を“楽しんだ”経験をもつ先輩です。
慶應義塾高校野球部らしさを体現する学生コーチが共に指導に当たってくれることほど心強いことはありません。
大きな裁量を与えれば
ミスを恐れない人間に育つ
慶應義塾高校野球部では、選手が監督に何でも相談できるフラットな組織づくりを目指しています。
学生コーチに関しても、監督とコーチという上下関係ではなく、ともに指導に当たる仲間というスタンスで接しています。
私が上田監督に仕事や役割を与えてもらったことでたくさんのことに気付けたように、学生コーチにはなるべく幅広い権限を渡して、その代わり責任をもってやってもらうようにしています。
選手たちの世代の傾向として、「ミスを極端に怖れる」ことが挙げられますが、大学生である学生コーチたちも同じような環境で育っています。
生まれたときからインターネットがあり、物心ついた頃にはスマホがあるデジタルネイティブ。自分が直接関わっていなくてもSNSでの人間関係と無関係ではいられない世代です。
私は学生コーチにも、致命的ではないミスならどんどんしてもらって、失敗を成功につなげるヒントにしてほしいと思っています。
『成長至上主義のチームデザイン――成長こそが慶應の野球』(森林貴彦、東洋館出版社)
致命的なミスにならないようにカバーしたり、サポートするのは大人の仕事です。まずは信じて任せる。具体的な方向性や修正しなければならない点、全体で共有すべきことは伝えますが、スタンスとしては委ねる、任せるが基本です。
「これをやりたいからこれを手伝え」とか「自分の代わりにこれをやっておけ」という主体性のない補助的な作業を任せるのではなく、与えられた課題に1人ひとりが自分の頭で考えて答えを出し、試行錯誤を重ねながら伝えること、教えることについて学び、コーチとして成長できるような環境を用意したいと考えています。
指示を与えられないと動けない人も増えていますが、「まずは自分でやってみなさい」と委ねることがやる気を引き出す一番の方法だと私は思います。







