ベルリンで自動車業界のリーダーたちとの会談後、取材に応じるドイツ・フリードリッヒ・メルツ首相(左)とラース・クリンクバイル財務相。メルツ氏は、欧州連合(EU)が2035年までに化石燃料自動車の販売を制限する計画を阻止すると表明した=10月9日、首相官邸で Photo:Sean Gallup/gettyimages
環境先進国の欧州で広がる
「アンチ・グリーン」
トランプ大統領の再選以降、米国ではESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが急速に後退している。トランプ政権はESGを「左派的なイデオロギー」とみなしており、パリ協定からの再離脱を表明しているほか、金融機関や企業にもESG関連の施策を撤廃するように圧力を強めている。
しかし、こうした動きは米国に限った話ではない。環境先進国として知られ、世界の脱炭素政策をリードしてきたヨーロッパでも、環境政策にブレーキがかかる事態となっている。
欧州連合(EU)は2019年、フォン・デア・ライエン委員長率いる新欧州委員会の目玉政策として、急進的な環境政策の促進を目指す「欧州グリーン・ディール」を発表した。
欧州グリーン・ディールは、温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「気候中立」を2050年までに達成することを掲げる環境政策であるだけでなく、脱炭素技術などの環境関連産業の振興による経済成長戦略としての側面も持っている。また、先進的な規制を導入することでグローバルスタンダードを形成し、次世代の産業の主導権を握るという「ブリュッセル効果」も狙った構想であると言えよう。
しかし、2019年の発表から数年が経過した今、欧州グリーン・ディールは経済的な現実と政治的な逆風という厳しい壁に直面している。
そもそも、こうした欧州委員会の取り組みの背景には、EU市民の環境保護への意識の高さが存在した。しかし、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻がもたらした物価高騰は、市民の関心を日々の生活防衛へと向けさせ、環境問題の優先順位を相対的に低下させた。
実際、欧州委員会が実施した最新のアンケート調査においては、EUが直面している主な課題として「ウクライナ戦争」や「不法移民」を挙げるEU市民が多く、「環境問題」は「生活費」や「国防」と並び3位に甘んじている(図表1)。脱炭素の推進がエネルギー価格の高騰や欧州企業の競争力の低下をもたらしているとして、日々の生活に重くのしかかる「コスト」として認識される面が出てきたことも一因だろう。








