
>>(上)『高市政権「ガソリン減税」実現の難題“消える1兆円”、道路補修の費用は誰が負担するのか?』から読む
脱炭素化やエネルギー安全保障
中長期の戦略的視点が欠落
物価高対策を巡る議論が昨年来、続いてきた。その中で「ガソリン減税」は、新政権発足後、与野党でまずは議論されるべき課題だ。
揮発油税の旧暫定税率廃止の減収分約1.0兆円(地方税の軽油揮発税の旧暫定税率分を含めると1.5兆円)の代替財源をどうするのか、同時に道路の老朽化に伴って今後も増加が見込まれる道路の補修、維持管理費をどう確保するのか、という当面の問題を(上)では指摘した。
だが問題はそれだけではない。深刻なのは、「ガソリン減税」を巡る議論は中長期の戦略的視点を全く欠いていることだ。
物価高対策だけでなく重要なのは、(1)脱炭素化、(2)貿易収支とエネルギー安全保障、(3)自動車産業の将来だ。
ガソリン減税は、脱炭素化に逆行するだけでなく、化石燃料の需要を増やすことになり日本のエネルギーや貿易構造の脆弱性を強めることになる。
そして日本の基幹産業である自動車の将来にとっても旧暫定税率の廃止は当面、ガソリン車を有利にすることになるが、自動車の主流になりつつある電動化への取り組みを遅らせることになりかねない。すでに電気自動車では中国企業などに立ち遅れている劣勢が一段と強まり、自動車産業の発展にとって逆効果でしかない。
これら3つの問題は、相互に連関し合っており、日本の経済社会の将来の行方を左右する。税制を経済社会の長期的な構造変化や技術の変化に対応して組み替えていく大きな税制改革の視点が重要なのだ。
政治は、物価高問題での人気取りや国会内や与野党連携への主導権争いで、「ガソリン減税」を考えてはいけない。