『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は「騙されない人」の考え方について『EXPERT』の内容を元にお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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エキスパートが実践する「騙されない」考え方

「どうして、あんな初歩的なミスに気づかなかったのか」
「どうしてあの誘いに乗ってしまったのか」

仕事では、「自分の見落としに気づかず自分に騙される」、あるいは「相手の思惑にうまく乗せられてしまう」といったことも起こりがちです。そして、優秀な人ほど思い込みに足を取られやすいとも言われています。

医学の世界には、古くから伝わるこんな格言があります。

「X線で見逃される骨折は、予想外の場所にある“二つ目の骨折”である。一つ目が明らかな場合はなおさらだ。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.145より

交通事故で脚の骨折がはっきり写っていたとします。すると医師は「骨折はこれだ」と安心し、脊椎や指の微細な骨折を見落としやすくなるのです。

実はこれ、医師に限られた現象ではありません。私たち全員が、例外なく持っている傾向です。

人は、自分が探しているものが見つかった瞬間に探索をやめてしまいます。そしてこの思考停止が、ビジネスにおける誤判断・見落とし・勘違いの正体なのです。

カーネマンが示した「人は見たいものだけを見る」という事実

ノーベル賞学者ダニエル・カーネマンは、人間の意思決定には「確証バイアス」が入り込むと指摘しました。自分が信じたいことを裏付けるために証拠を解釈するというものです。

こうした“思考のクセ”を自覚しなければ、人は簡単に判断を誤ります。どれだけ経験を積んでいても、どれだけ頭が良くても関係ありません。

むしろ、経験がある人ほど「自分はわかっている」という過信が働くため、見落としのリスクは高くなります。

騙されない人ほど「一度立ち止まる」

では、どうすればいいのでしょうか。騙されない人になるために鍵となる2つの考え方を紹介します。

①いったん結論を保留する
「多分こうだろう」と思っても、すぐに判断しない。仮説を持ちつつ、同時に他の可能性を探し続ける。

②反対証拠を探す習慣を持つ
自分の直感を裏付ける証拠ではなく、「自分の判断が間違っている証拠」を探すという発想を持つ。

この2つは驚くほど地味で、誰にでもできる行為ですが、思い込みに抗うことができます。大事なのは、思考が止まりそうになった瞬間に、もう一歩踏み込めるかどうかです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』を元にした記事です。)