レケンビは、投与期間が原則18カ月であるのに対し、ケサンラは12カ月の時点でAβが除去できたら治療を終了できます。

 一方、「ARIA」(アミロイド関連画像異常)という脳の腫れ(ARIA-E)や微小出血(ARIA-H)などの副作用の発生率は、横並びの比較はできないものの、ケサンラの方が高く(※2)。効果や副作用、利便性などはそれぞれ一長一短です。ケサンラは8月末に用法の変更があり、イーライ・リリーによると、当初のデータよりARIAの発生率は低くなりました。

 ただし、これらの治療は、早期アルツハイマー病の人すべてが受けられる訳ではありません。

治療の対象になるのはどんな人?
説明を聞いて辞退するケースも

 井原さんによると、レケンビの治療を国内で最初期に開始した東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)では、2段階のスクリーニング(選別)を行っているといいます。

 まず、もの忘れ外来の受診者で、「神経心理検査(MMSE)」などの臨床的な重症度の評価から適応条件に当てはまりそうな人に、点滴治療である新薬に関心があるかを確認します。

 MMSE(満点が30点)は、認知症が疑われるときに行うテストで、28~30点は異常なし、24~27点は軽度認知障害(MCI)の疑いあり、23点以下は認知症の可能性あり、というのが基本的な評価基準。レケンビは22〜30点、ケサンラは20〜28点の人が対象者です。

 次に、関心を持った人に対して抗Aβ抗体薬の詳しい説明を行って、治療意向が確認できれば、Aβの蓄積を確認する「アミロイドPET検査」、安全に治療を行うことができるかを確認するための「MRI(磁気共鳴画像化装置)検査」を含む複数の検査を行います。

「それぞれ1段階目で約5割、2段階目で約4割が通過するので、適応となるのは全体の約20%でしょうか。詳しい治療や副作用の説明を受けて辞退する人もいます。特に80代では、副作用が怖いから、あるいはそんなに大変な治療はと躊躇してやめるという人が多くなりますね」

 では、2つの薬をどのように選ぶのでしょうか。

※2治験の最終段階である第3相試験「Clarity AD試験」(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36449413/)で、レケンビは、ARIA-E(浮腫)の全体発現率が12.6%(うち症状があるのは2.8%)、ARIA-H(微小出血など)の全体発現率は17.3%、ケサンラは、第3相試験「TRAILBLAZER-ALZ 2試験」(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37459141/)において、ARIA-E(浮腫)の全体発現率24.0%(うち症状があるのは6.6%)、ARIA-H(微小出血など)の全体発現率は31.4%。