「私の病院では、『実績のある薬がいい』『薬の投与をやめることに不安がある』という人はレケンビを、仕事が忙しい若い人や通院に時間をかけたくない人はケサンラを選ぶ傾向にあります。地方では、車での通院が大変という理由でケサンラを選択する人が多いようです」

副作用ARIAの発生率が高い人に
遺伝子的な特徴

 副作用のARIAは、その多くは無症状ですが、時に重篤な症状が出て、ごくまれに死に至るケースもあります。アルツハイマー病の発症にも関わる「APOE(アポリポ蛋白E)4」という遺伝子の3つの型の中で、4型を両親から受け継いでいる人(ホモ接合体)はARIAの発生率が特に高いことが治験の結果からもわかっています。

 そのため、アメリカでは治療前のAPOE遺伝子検査が推奨されており、ヨーロッパでは、安全性の観点から、APOE4ホモ接合体の人は抗Aβ抗体薬の治療を受けられません。

 日本も今後、遺伝子検査が保険適応となる見通しですが、現時点では未承認です。今年1月から、全国規模のレジストリー研究の中で遺伝子検査を行っているものの、治療薬が決まってから検査を行うため、使い勝手は悪いと言います。

「患者さんの主体的な選択を損ねています。治療を行うかどうか、またどちらの薬を使うかを決める前に検査を行って、ARIAのリスクが高い人に対しては、患者さんと慎重に議論を重ねて治療の選択に繋げたいですね」

 東京都健康長寿医療センターでは、レケンビ124人、ケサンラ31人の投与を行ってきました(25年10月現在)。

「現在までに重篤な副作用があった人はいません。レケンビではARIA-Eは5件、ARIA-Hは16件。ケサンラではARIA-Eが1件、ARIA-Hが4件程度です」

 治療を途中で中断した人は19人。うちARIAが原因なのは4人、残りの多くは、症状の進行や周辺症状(BPSD)が強くて治療に対応できない人、他の病気で入院した人などです。治療が生活の負担になっている場合は、患者と相談の上で、適切に中止するといいます。

 井原さんは、抗Aβ抗体薬を使った治療の最大の課題として、「キャパシティー」を挙げます。