井原涼子さん 東京都健康長寿医療センター健康長寿イノベーションセンター臨床開発ユニット長 写真提供/本人
「私たちの病院では、80人の(抗Aβ抗体の点滴を受ける)投与枠を作りました。治療を開始して6カ月以降は、薬の投与を継続する『継続投与施設』に患者さんを紹介しますが、そこもすぐに枠が一杯になってしまいます。希望する人すべてを受け入れる余裕がありません」
潜在的には、より多くの候補患者がいるはずですが、キャパシティーの問題のため積極的な啓発もできないと訴えます。
また、毎回点滴投与前の診察、点滴の投与、複数回のMRI検査、定期的な認知機能検査や、継続投与施設への引き継ぎなどの多部署に渡る作業負担を考えると、投与枠を増やすのは難しいといいます。
MRI設備、ベテラン専門医複数名の在籍…
投与する病院への厳しい要件
厚労省の「最適推進ガイドライン」では、薬の投与を初回から開始できる病院は、MRIの設備、副作用が出た場合の対応体制、10年以上の経験がある専門医師複数名の在籍などの厳しい要件が定められています。施設内に点滴を投与するスペースも必要となります。
「患者さんが1回点滴すると、病院に入る利益は3000円台だそうです。そこから人件費や光熱費を出すことになります。継続投与施設では点滴するだけなので全く儲からないでしょう」
労力だけ増えて儲からない――。
実際、筆者もある医師から「投与するたび赤字になる」との悲痛な声を聞きました。医療機関は十分な収益を得られないため、施設拡大へのインセンティブも働きません。大学病院も開業医も二の足を踏みます。
一方、抗Aβ抗体薬は高額で、レケンビの場合、1年で約253万円(25年11月1日以前は約298万円)。とはいえ、多くの75歳以上の人は、窓口で支払う治療費の自己負担は1~2割です。さらに高額療養費制度も適用される。患者の自己負担は抑えられるが、病院、そして国の負担は大きくなります。
「新たに発生する労力に対して人を雇用する必要があります。病院の持ち出しで治療はおかしい。本来、保険診療で行うことが難しい治療なのだろうと個人的には思います」
井原さんは、治療を続けて痛感したことがあると明かします。







