アルツハイマー病の治療薬に「投与するたび赤字」「労力だけ増えて全くもうからない」と病院から悲鳴があがるワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

近年発売されたアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ(製品名:レケンビ)」と「ドナネマブ(製品名:ケサンラ)」。「治療効果が期待できる、症状が進む前の早いタイミングで受診してほしい」と訴えるのは、東京都健康長寿医療センター健康長寿イノベーションセンター臨床開発ユニット長の井原涼子さんだ。アルツハイマー病の進行を抑制する2つの薬について、投薬対象となる症状や副作用、そして、現場の医師が抱えるジレンマをお届けする。(取材・文/ライター 西野谷咲歩)

新薬「レケンビ」と「ケサンラ」は
どのくらい進行を抑制するか

 エーザイとバイオジェンが開発した「レケンビ」(日本では2023年12月20日に発売)と、イーライ・リリーの開発した「ケサンラ」(同24年11月27日発売)は、アルツハイマー病の原因の一つとされる、脳に蓄積したたんぱく質「アミロイドベータ(Aβ)」を除去する作用がある初めての治療薬(抗Aβ抗体薬)です。

 ただ、すでにある症状を回復するのではなく、進行を抑制するにとどまります。

 投与対象や測定尺度が異なるので単純な比較はできませんが、18カ月にわたる最終の臨床試験(治験)で、レケンビは、CDR-SB(臨床認知症評価尺度)の進行(スコア悪化)を 27.1%、ケサンラは28.9%抑制しました(※1)。

 抗Aβ抗体薬の対象となるのは、早期アルツハイマー病(アルツハイマー病を原因とした軽度の認知症、その前段階にある軽度認知障害〈MCI〉)の人です。現状、レケンビは2週間に1回、ケサンラは1カ月に1回、点滴で投与して治療します。

※1 CDR-SB(記憶、見当識、判断力、問題解決など6項目からなる。0~18の範囲で数値が高いほど障害が大きい)において、レケンビの場合、治験を行う前は、参加者全員のスコア平均が3.2だった。18カ月後、実薬を投与したグループは平均1.21、プラセボ(偽薬)を投与したグループは平均1.66に、それぞれスコアが悪化。二つの差となる0.45を1.66で割って、「27%の進行抑制」としている。