キム・ヌリはさらにドイツ政治を例に挙げ、連邦議会(2013年~17年)では自由市場経済を支持する議員は1人もいないとした。ひるがえって韓国社会が「ヘル朝鮮」である理由は「『自由主義経済』を支持する者たちが議会を掌握しているから」と喝破する。
さらに、韓国の大統領選にアンゲラ・メルケルが出馬したらどうなるかという問いを読者に投げかける。ドイツで保守政党に分類されるキリスト教民主同盟に所属する首相であるが、韓国の大統領選に出たら「アカ」や「共産主義者」という声を聞くだろうというのだ。大学の学費と学生の生活費を国家がすべて負担し、医療保険と住居に関する基本的な責任も国家が担うべきだという主張のためだ。
その上で「韓国は保守と進歩が互いに競争する社会」という世間一般の認識を「これこそが韓国の既得権がつくり上げた最悪の噓である」と喝破する。
キム・ヌリはさらに「現在の韓国は『保守と進歩が競争する社会』ではなく『守旧と保守が寡頭支配する』社会」であるとする。
左派的な政党の不在が
平等・分配の軽視につながった
韓国政治のニュースに必ず出てくるのが「保守」と「進歩(日本メディアは革新とも)」であるが、これが実際にどんな主張を掲げ、どのような集団なのかについて日本語で書かれたものは多くない。
キム・ヌリは守旧を「自身の個人的な利益のために外勢と手を結んで機会主義的に行動する一団」と位置付ける。共同体や文化、民族を大事にする「保守」とは区別される人々という認識だ。親日派の存在という歴史に基づいた解釈といえるだろう。
進歩は保守であるというのは、どういうことか。韓国の政党の中で進歩派に分類されるのは、共に民主党、正義党、祖国革新党、進歩党、基本所得党、社会民主党だ。この中で欧州基準の左派に分類されるのは正義党と進歩党、社会民主党で、2025年時点の議席はわずか4議席にすぎない。
特に重要なのが、共に民主党は進歩であるが左派ではない点だ。
キム・ヌリは、このズレこそが「まやかし」の正体であるとしている。
つまり、社会問題を是正するために必要な、平等や分配を重視する左派的な観点が二大政党に共通して存在しないとみているのだ。
その上で、共に民主党と自由韓国党(現・国民の力)の間には政策上の差がほとんどなく、あえて探すなら金正恩への見方程度しか変わらないと指摘する。







