また、首都圏への人口集中、出生率の低下などにより消滅が危ぶまれる地方が増えた。韓国政府は2021年10月にはじめて「人口減少地域」を指定した。89の自治体がこれに含まれている。

 最も多いのは南西部の全羅南道で16の自治体が、次に南東部の慶尚北道が15の自治体で続いた。前者は進歩派の、後者は保守派の最大の票田である。

大ヒット作から滲み出る
過度な競争社会の歪み

 思わず目を背けたくなる数値のオンパレードだ。こうした統計は尹錫悦政権が発足した2022年5月以降も改善されないままだ。つまり韓国社会の問題は、進歩派(文在寅)や保守派(朴槿惠・尹錫悦)のどちらかが原因であるという次元を超えた状況にあることが分かる。

 2016年~24年の間に、世界に印象付けた「Kカルチャー(韓流)」の派手な姿とはあまりに対照的だ。映画『パラサイト』のアカデミー賞受賞、ドラマ『イカゲーム』の世界的ヒット、そして韓江のノーベル文学賞受賞、さらに新型コロナへの模範的な対策といった「快挙」の裏で社会は少しずつ崩れてきた。

 もっとも、こうした韓流の素材も、よく見ると社会の問題ありきである。『パラサイト』は階級社会の問題を、『イカゲーム』は競争社会と拝金社会の問題を、韓江の主要作品のいくつかは癒やしなき現代史の問題を扱っていた。そして新型コロナへの対応は、国民総背番号制という休戦状態にある管理・動員国家ならではの強みが存在した。

貧困から抜け出すには
大企業に就職するしかない

 それではなぜ、韓国社会はこうなってしまったのか?

 誰もが認知する重要な社会問題だけあって、背景を分析する本は毎年、少なからず出ている。そのすべてを読んだわけではないが、結論としては過度の競争社会の存在に原因が収斂されるようだ。

 2024年になって『自殺する大韓民国』(未邦訳)という本が注目を集めた。韓国社会が抱える問題を「お金の流れ」という観点から分析したもので、著者のキム・ヒョンソンは36歳と若いが、過去に勤めた金融会社で2000億円規模の資産を運用した経験があり、お金への嗅覚が鋭い。