会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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「穴熊社長は会社を潰す」
ここからは、「経営者の姿勢」についての重要なところを説明します。
「穴熊社長は会社を潰す」
この言葉は、経営コンサルタントの大先輩の故・一倉定先生の言葉です。社長が会社にずっといて外に出ないことをとがめたものです。
社長は、どんな会社でも社内にいると、一応はちやほやされます。業績の悪い会社でも、社内での最高権力者だからです。
しかし、その状況に満足していてはいけません。
社長は外に出て、お客さまや同業者のみならず異業種の経営者など多くの人と会って、適切な情報を得なければなりません。お客さまと会うことで、クレームなどを言い渡され嫌な思いをすることもあるでしょう。
また、異業種の人に会ったり勉強会に出るなどして、知らなかったことを学んだり、気づきを得ることも少なくありません。ときには、自分のふがいなさに惨めな思いをするかもしれません。それも大切です。
「自社の常識は社会の非常識」「業界の常識は社会の非常識」なことは少なくありません。
また、社長がずっと社内にいると、どうしても判断を仰ぎに来る部下も少なくなく、部下、とくに次世代経営者が育ちません。
私が多くを教わった一代で東証プライム上場企業を築いた経営者は、会社にいる日数の上限を決めて、出社した日数を手帳に記録していました。
残りの日は、お客さま回りや異業種の人たちとの勉強会などに参加するのです。それで多くの情報を得ることができたのです。
コインの表側は「優しさ」
では、その裏側は?
リーダーが持つべき二つの覚悟の一つである「指揮官先頭」ができるようになっても、部下はすぐにはついてきてくれません。
自分がやれば必ず人はついてくるなどと思うのは、思い上がりの幻想です。「指揮官先頭」は必要条件です。
リーダー自身が先頭に立ってやるとともに、お客さまが喜ぶことや働く仲間が喜ぶことなどの「小さな行動」を部下にやらせることが必要です。
リーダーだけがやっていても、お客さまや働く仲間は納得しません。やらない部下には、やるように言わなければなりません。場合によっては厳しく言わないとダメです。
皆さんは部下に厳しく言うことはできますか? これはとても大切なことです。
リーダーの持つ「甘さ」と「優しさ」は違います。
「甘さ」というのは、その場しのぎです。「こんなことを言うと、この人がかわいそうだ」とか、「注意すると、自分が恨まれるんじゃないか」と考えて言わずに済ませてしまうのは甘さです。
一方、リーダーが持つ「優しさ」とは、中長期的にみんなを幸せにできるかどうかということ。お客さまを幸せにして、自分も含めて働いている人たちを幸せにできるかどうかは、リーダーが持つ「優しさ」にかかってきます。
もし「甘さ」というコインがあるとすれば、その裏側は「冷酷」です。リーダーが甘いことばかり言っていると、組織はいずれダメになるからです。
「優しさ」というコインがあったら、その裏側は「厳しさ」です。やはり言うべきときには、厳しいことも言わなければいけません。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




