対策としてキャンセル料引き上げ措置を取った会社もあるが、相席ブロックは根絶されていない。相応のキャンセル料を支払ってでも「事実上の2席確保」を実現したいというニーズは根強いのだ。

 ちなみに、客に法的責任は問いにくいという。本当に2人が乗る予定で急遽1人が乗れなくなったかもしれないからだ。そもそも正規の手続きに則っており、キャンセル自体は違法でもなんでもない。

 制度や仕組みを作った者が想定しなかった抜け道や欠陥を突いて、利益を得る。いわゆる「ハック」というやつだ。

「知らないと損する」が溢れるSNSの世界

 相席ブロックというテクニックが広まったのは、簡単な方法で快適という「得」を得られるから。逆に言えば、方法を知っているのに実行しなければ「損」をしてしまうからである。

「損」で連想するものがある。昨今のX(旧ツイッター)で大量に目にする、「知らないと絶対損する!」「今までマジで損してたわ……」といった煽り文句で始まるお役立ち情報系ポストだ。内容は、生成AIの仕事活用術、Amazonの激安セール情報、自治体に申請すればもらえる助成金一覧、おすすめの無料アプリ、ポイ活指南など、幅広い。

 そういうポストをするアカウントの大半は、純粋な親切心でお役立ち情報を提供している……わけではない。多くは自分のビジネスへの動線を作ろうとしている。その彼らが、ポストをできるだけ多くの人の目に止まらせるために実行する定番のひと工夫が、この書き出し文句だ。

 なぜ「知っていると得する」と書かないで「知らないと損する」と書くのか?心理学的あるいはマーケティング的に、そう書いたほうが読まれやすいからだ。SNSでは明らかに、「知らないと損する」と書いたほうが読まれ、クリックされる。

人を動かす「損失回避」の心理

 人は、「マイナスから0」になるものには金を払うが、「0からプラス」になるものにはあまり払わない。

「マイナスから0」の例が、脱毛・痩身・健康食品などの広告だ。これらの広告は遠回しに、「夏を前に脱毛しておかないとみっともない」「太っているとモテない」「このままでは病気になってしまう」などと脅す。広告を目にした者に「現状のあなたは好ましくない状態(マイナス)であり、そこから脱さなければ非常にまずい」という危機感を抱かせることで、クリックやタップを促している。