戦闘訓練を積んでいる陸自が
クマを直接「退治」できなかった理由
現代日本に話を戻す。秋田県知事の緊急要望を受けた小泉進次郎防衛大臣は直ちに動いた。陸上自衛隊は11月5日、秋田県とツキノワグマによる被害防止に関する協力協定を締結。陸自が箱ワナや人員の輸送、駆除した個体の処理などをサポートし、自治体職員や猟友会など現場の負担を軽減することが決まった。
SNSで勘違いする人が続出したため、あらためて強調しておくが、今回の出動では自衛隊が銃器などを駆使して「クマ退治」を直接行ったわけではない。あくまで自衛隊が任されたのはサポートであり、駆除を担うのは現地の猟友会などであった。
実際、小泉防衛大臣の閣議後会見(11月28日)によると、「昨日までに秋田県内の11の市町村において、延べ815人の隊員によって、箱わなの運搬を137件、駆除後のクマの運搬を9件、駆除後のクマの埋設のための掘削を1件、そしてドローン等による情報収集を行った」という。
ここで疑問なのは、なぜ猟友会よりも高性能な武器を持ち、組織的な戦闘訓練を積んでいる陸自がクマを駆除しなかったのかということだ。その理由を、前出のA氏は次のように語る。
訓練に臨む陸上自衛隊員(出典:陸上自衛隊公式ホームページ)拡大画像表示
「今回のクマ対策支援は、自衛隊法第100条に基づく民生支援です。自衛隊の武器使用は、自衛隊法により厳しく制限され、防衛出動や治安出動などに限られます。災害派遣や民生支援での武器使用は想定されていないのです」
「もちろん、警察官職務執行法を準用して、正当防衛や緊急避難での使用はできます。しかし今回は“自衛隊が国内で武器を使う”というインパクトに加え、猟友会や警察が対応可能という代替性の問題もあって、民生支援に落ち着いたのだと思います」
陸自の派遣部隊は約200kgの箱ワナを運搬したわけだが、隊員の装備が公開されるやネット上に失笑があふれた。ヘルメットと防弾ベストを装着した隊員の手には、木銃とポリカーボネート製の盾。クマよけスプレーも携帯したというが、その姿は衝撃的だった。







