
「湯たんぽ壊す 誰のため」
「恨むなら自分を恨んで」「私は反対したんだから」とけんもほろろで。
その後のマーサに手を焼いたヘブンは、せっかく見つけた居場所を自ら手放してしまった。
以後、居場所を見つけたり、誰かと一緒になることはできないと考えるようになった。
「人と深く関わることはやめたのです」
「どの国でもどの街でもただの通りすがりの人間として生きていくことにしたんです」
「誰とも深く関わらない。恋人でも、友人でも、誰でも。そう決めたんです」と通訳する錦織(吉沢亮)がひじょうに浮かない顔をしている。
リヨもこれ以上は追及できなかったのだろう。
ヘブンと錦織が重い足取りで江藤宅からヘブン宅に戻ってくる。
いつもなら、いったん中に入りそうな錦織だが、「わたしはここで」と玄関先で踵を返す。
元気のないヘブンに「お酒 飲む ないですか」と気遣うトキ。
「ありがとう」と言葉少ななヘブン。
鏡に向かって着物に着替えているカットと、回想でマーサとヘブンがうまくいかなくなっている様子が鏡に映っているカットに呼応するようで、ヘブンが過去をのぞき込んでいるようにも筆者には見えた。
愛鳥チェアが鳴き、ヘブンは鳥かごを見つめる。ちゃんとチェアの正面顔が映り、ヘブンと向き合っているように見える。鏡とチェア。ヘブンの心を映す装置になっているようだった。
おもむろにヘブンはカゴの戸を開けると、チェアを出して、庭から外へと飛ばしてしまう。
トキにはそれがリヨとの別れを示していると感じられたのだろう。リヨのもうひとつの贈り物・湯たんぽも壊そうとして――。
「違う!」
トキの勘違いを笑うヘブン。
「チェアを逃がしたのはチェアのため」
「湯たんぽ壊す 誰のため」
チェアには定住できないヘブン自身を重ねたとはいえ、湯たんぽはもったいない。
人種の違いが人と人を分断する。だから最初から関わらない。ヘブンの抱える苦悩が判明したが、トキの勘違いは期せずして、強張ったヘブンを笑わすことができた。
どんなに寒くて悲しいことがあっても、あったかい湯たんぽ、あったかい白湯(お茶)、ちょっとした行為、これらがひととき人の心を溶かす。







