新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、12歳から差がつく「受験に強くなる」親子の習慣について解説します。

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「完璧な経歴」よりも「失敗を語れる力」

私たちはこれまで、実際に大学に合格した生徒の志望理由書を1万件以上集め、どんな子が合格しているのかを徹底的に分析してきました。その中で、合格者はいくつかの『合格者の共通点』があることがわかっています。

その1つが、「失敗とどう向き合ったか」「失敗をどう乗り越えたか」を具体的に語れる学生ほど、合格しているということです。

「完璧な経歴」よりも「失敗を語れる力」というと、一見、矛盾しているように思えるかもしれません。総合型選抜では、探究活動・ボランティア・生徒会・部活など、華やかな実績を持っている生徒が有利だと思われがちです。

しかし、実際の合格者を見ていくと、“完璧な経歴”の生徒が不合格になるケースも少なくないのです。

一方で、課外活動が思うようにいかなかった生徒、チームの中で意見が通らず悔しい思いをした生徒、何度も失敗しながら改善を重ねてきた生徒が、最終的に高く評価されているケースが多く見られます。

大学が見ているのは、「失敗しなかった子」ではなく、「失敗とどう向き合った子」なのです。

失敗の“解像度”が高い子は強い

もう少し具体的にお話しすると、合格者の志望理由書や面接の内容を分析していくと、失敗のエピソードを語るときの「解像度」が高い人ほど合格しやすいという傾向があります。

たとえば、「文化祭の企画がうまくいかなかったけれど、仲間と話し合って改善した」という一文だけでは弱いのです。

合格している生徒は、「文化祭の企画で、最初は自分の意見を押し通そうとしてチームがギクシャクした。そこから“人に頼る”ことの大切さに気づき、相手の意見を引き出す会議のやり方に変えた」というように、「何がうまくいかなかったのか」「なぜそうなったのか」「どう考え、どう行動を変えたのか」を細かく説明できる場合が多いです。失敗を振り返る力、いわば自己分析力と内省力が高い学生の方が合格しやすいのです。

「失敗させない教育」は、チャンスを奪う

そしてこの「失敗との向き合い方」には、実は12歳ごろからの親御さんの関わり方が大きく影響しています。良かれと思って、子どもの前の“石ころ”を取り除いてしまう親御さんはとても多いです。「転ばせたくない」「傷つけたくない」「失敗しないように準備してあげたい」――その気持ちは痛いほどわかります。

しかし、その“先回り”こそが、総合型選抜では命取りになってしまうのです。

なぜなら、失敗を経験していない子どもは、面接で「困難をどう乗り越えましたか?」と聞かれたときに、何も語れなくなるからです。順調な経歴しか持っていない子ほど、「苦労」「改善」「成長」といったエピソードを具体的に話せない傾向があります。

大学が見ているのは「転んだ後の姿」

総合型選抜で大学が評価するのは、「うまくいったかどうか」ではなく、「どう立ち上がったか」です。転んだときに何を考え、どう立ち直り、どんな学びを得たのか。そこに、その人の人間性や成長力が現れます。

言い換えれば、「転んだ経験」がなければ、語るべき物語も生まれないのです。私たちが見てきた合格者たちは、みな一様に「一度は壁にぶつかった経験」を持っています。探究活動でテーマを変えざるを得なかった子、仲間と対立して苦しんだ子、発表でうまく話せず悔し涙を流した子――。しかし、そこから逃げずに向き合い、自分の言葉で振り返れた子ほど、強く成長していきました。

「転ばない道」ではなく、「転んでも歩ける力」を

親としては、つい「転ばないように」と子どもの前を整えてあげたくなります。でも、本当に必要なのは、転ばないように石を取り除くことではなく、転んだときにどう立ち上がるかを一緒に考える姿勢です。

子どもが失敗したときに、「ほら言ったでしょ」ではなく、「どう思った?」「次はどうしたい?」と声をかけてあげるだけで、子どもの思考は変わります。

そうやって「自分の言葉で失敗を語れる」ようになったとき、総合型選抜で最も評価される“内省の力”が育つのではないでしょうか。

総合型選抜は、完璧な人間を探す入試ではありません。むしろ、うまくいかなかった経験から学びを得られる人、自分の成長を自覚して次に生かせる人を評価する入試です。

だからこそ、親御さんに伝えたいのは、「子どもを転ばせてあげてください」ということです。

それは放任ではなく、“信頼”です。転んでも立ち上がれる子は、受験だけでなく人生でも強くなります。

総合型選抜が本当に見ているのは、学力の高さではなく、歩き続ける力。親がその一歩を支えてあげられたら、どんな失敗も、きっと子どもにとっての宝になります。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)