「経営学の父」と呼ばれるのは誰か、あなたは即答できますか?
その名は――ピーター・ドラッカー。
彼が残した言葉は、時代を越えて世界中の経営者やビジネスパーソンの指針となっています。なぜ没後20年近く経った今も、ドラッカーは読み継がれ続けるのか。
『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』の著者である吉田麻子氏に、現代にこそ響くドラッカーのメッセージを伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)

「優しさと成果は両立しませんよね?」ドラッカーならどう答える?Photo: Adobe Stock

「優しさ」と「成果主義」は両立できる?

――「優しさ」と「成果主義」は両立できると思われますか?

吉田麻子(以下、吉田):結論からいえば、両立します。

ドラッカーの思想では、優しさこそが本来の成果主義の前提なのかもしれません。

ドラッカーは「成果は外にある」と語ります。

これは、成果とは数字ではなく、外の世界にどんな変化をもたらしたかという意味です。

「位置と役割」――ドラッカーが見ていた“人間の幸福”の核心

吉田:ここで軸になるのが、ドラッカーが『産業人の未来』で説いた「位置と役割」という考え方です。

ドラッカーは前書きでこう言っています。

「産業社会では、それぞれの組織が一人ひとりの人間に役割を与える社会的機関であるだけでなく、位置を与えるコミュニティでなければならない」

さらに本文では、こう述べています。

「位置と役割をもたない者にとって、社会は不合理に満ち、計算できず、かつとらえどころのない存在である」
「一人ひとりの人間が社会的な位置と役割をもつことは、その個人にとって重要なだけでなく、社会にとって重要である。個人の目的、目標、行動、動機が、社会のそれと調和しないかぎり、社会は一人ひとりの人間を理解することも、自らの一員とすることもできない」

つまり、人が“ここが自分の場所だ”と感じ、自分の強みを使って外の世界に貢献できる状態は、“働くうえでの幸福の条件”なのです

現代風に言えば――「強みが生きて、ちゃんとハマる場所がある」

これが人のモチベーションの土台になるといえます。

リーダーの本当の「優しさ」とは

吉田:この視点に立つと、リーダーの優しさは

・気を遣いすぎて何も言わない
・コンフリクトを避ける
・甘やかす

といった“表面的な優しさ”のことではありません。

本当の優しさとは、メンバーが強みを発揮し、貢献に向けて力を出せるよう、役割と方向性を整えること

同じ成果を目指す異なるメンバーたちが、それぞれ前に進めるようにするための優しさではないでしょうか

ドラッカーは『経営者の条件』でこう述べています。

「自らの貢献を問うことは、可能性を追求することである。」

人は、貢献できる場所があるとき、もっとも成長し、もっとも輝くのです。

優しさと成果主義は同じ方向を向いている

◻︎優しさ=強みを信じ、仕事に生かすよう導くこと
◻︎成果主義=外の世界に価値という変化を生むこと
◻︎両者は対立せず、むしろ“本質的には一体”

吉田:リーダーがメンバーの強みを「外の成果」につなげられたとき、そこには一律のルールやひな型にとどまらない、受容と共感を伴った令和らしい“優しさ”が宿ります。

そしてその優しさこそが、人を成長させ、組織を強くし、最終的に大きな成果につながっていくのではないでしょうか。