「墓穴を掘って転落する人」のあまりに典型的な特徴【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第41回では、「細部へのこだわり」が強みになる企業について解説する。

スペシャリストだからこそ「模倣」が難しいことが分かるはず

 偶然の産物で手に入れた新しい「生地」。それを使って若者女性に特化したデザインのTシャツを作り、見事ヒットさせた主人公・花岡拳と花岡企画の社員たち。

 だが喜ぶのもつかの間。ライバルである大手商社・一ツ橋商事の井川泰子たちが、その生地を業者から横取りし、花岡たちの商品を模倣したTシャツの製造に乗り出したのだった。

 怒り、戸惑う社員もいる中で花岡は、井川が自ら墓穴を掘っていると指摘。「こっちのやるべきことをきちんとやる、それだけだ」と冷静な様子を見せる。そして商品の製作を担当する片岩八重子(ヤエコ)にこう語るのだった。

「あんたが一番よく分かっているはずだ。あの生地で商品を作るとしたらどんな技術が必要かが…」

 同じタイミングで東京・新宿に新店舗をオープンした花岡と井川。井川の店には、花岡たちのヒット商品を模倣したTシャツが並ぶ。井川の店を偵察してきた花岡企画の佐伯真理子は、デザインまで模倣されたTシャツの売れ行きが好調ということに腹を立てる。

 しかし花岡はそんなことは意に介さず、自分たちの商品が少しずつ認知されつつあることを確認し、「常に次を考えるべき」と語るのだった。

 数日後、井川のもとには「Tシャツを洗ったらバラバラになった」という顧客からのクレームが殺到する。花岡がヤエコに語ったとおり、技術の乏しい中国の工場で急ごしらえしたという井川たちのTシャツは不良品だったわけだ。

機能だけマネしても追いつけない、クリエイティブツール開発の世界企業

漫画マネーの拳 5巻P117『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 花岡たちの新作Tシャツを模倣して急ごしらえで商品化した一ツ橋商事は、やがてクレームの嵐に見舞われる。まさに墓穴である。一見「マネすれば追いつける」ように見えても、細部に宿る技術と暗黙知は模倣では埋められない。これは現実のビジネスでも繰り返し見られる構図だ。

 クリエイティブツールの最大手であるAdobeも、そんな強みを持つ企業の1社だ。

 これまで、同社の「Photoshop」や「Illustrator」に追随するソフトはいくつも生まれたが、同社の牙城を崩すまでには至っていない。直近ではCanvaが買収したクリエイティブツール「Affinity」を無料化し、Adobeに真っ向から挑む動きもあるのだが、今日明日に勝敗が決するわけではない。

 Adobeのこれまでの強さの理由には、「ソフトの機能」だけにとどまらないのではないか。

 Illustratorの発売は1980年代、外部開発者から買収したPhotoshopは1990年代に世に出た。いずれのソフトにしても、30年以上培った機能やUI、編集アルゴリズムも武器ではある。

 しかしそれ以外にも、プラグインを開発するサードパーティーや、導入企業間をつなぐ共同編集機能などで、単なる機能ではなく、「エコシステムの構築」を目指した。結果、その料金の高さから「Adobe税」とやゆするクリエーターすらも、手放すことができない存在となっていったわけだ。

 花岡たちにあって井川たちにない、ヤエコの縫製技術も、そんな目に見えない強みだったわけだ。まさに神は細部に宿るのである。

 同時に新宿に出店した花岡と井川。次回、それぞれが手がける店舗の売り上げでその勝敗が決することになる。

漫画マネーの拳 5巻P118『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 5巻P119『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク