「えっ、ただの土地なのに?」
息子を絶望させた管理費

 浩二さんがこの土地の存在を知ったのは、相続開始後でした。幸雄さんが土地を買っていたことをすっかり忘れていたのです。そして、驚がくしたのは「維持コスト」でした。

「別荘地管理組合に毎年3万円の管理費を払っていました。さらに固定資産税もかかっている。定期的に草刈り代金なども払っていたようです。建物もないただの原野にこの30年もの間、お金を垂れ流していたんです」

 よし子さんと浩二さんは遺産整理を進める中で、この那須高原の土地について話し合いました。2人にはこの土地の活用予定が全くありませんが、このまま相続すると2人のうちいずれかが、「夢の残骸」を所有せざるを得ません。

 結果、今後も別荘を建てる予定もないため、売却を進めることにしました。浩二さんはまず、那須高原周辺の不動産会社に問い合わせましたが、返ってくるのは、「売却は難しい」という回答ばかり。幸雄さん名義の預貯金やよし子さんが暮らすマンションなどのプラスの財産がそれなりにあったため、相続放棄も難しい状況でした。

 そんな時、よし子さんに1本の電話がありました。

よし子さんに忍び寄る
魔の原野商法とは

「ご主人が大切にされていたこの土地を、当社が高値で買い取らせていただきたいのです。今が売り時です」

 実は、仕事や家庭もある浩二さんに気を使い、よし子さんは那須高原に足を運んでいました。にこやかに声を掛けてきたある業者から名刺をもらい、相談していたところ突然連絡があったのです。突然の朗報に喜んだよし子さんは、「やっとあの土地を手放せる」と安堵しました。

 しかし、話はここから悪質な展開を迎えます。業者側が「売却をスムーズに進めるために、まずは土地の境界線を明確にする必要があります。つきましては、初期費用として、50万円をご負担ください」と言ってきたのです。

 実は、業者の目的は土地の売買ではありません。「売却のために必要」という名目で、処分に困っているよし子さんの焦りにつけ込み、さらに金銭をだまし取ることでした。原野商法の「二次被害」の手口だったのです。