EUもアメリカに後れを取りながらも、欧州半導体法(European CHIPS Act)と呼ばれる法律を2023年に成立させました。この法律では430億ユーロの投資が見込まれていますが、これはアメリカと異なり、官民合わせての金額で、EU予算からは33億ユーロの支出が想定されていて、残りは加盟国予算と民間投資が想定されています。この法律にはEUの半導体研究開発能力を向上させることと、EUが原則禁止としている加盟国による企業への国家補助に関する規制を緩和することが盛り込まれています。

 この欧州半導体法に基づき、ドイツ東部のドレスデンにTSMCの工場を誘致し、ドイツ政府が50億ユーロの補助金を拠出することになっています。この工場は2024年8月に起工式を終え、順調にいけば2027年に操業を開始する予定です。ただ、ドイツでは他にも半導体プロジェクトが進んでいますが、いずれも遅延しており、計画通りに進むことがあまり期待できない状況です。

日本の半導体産業と政策は
世界への影響力を失っていない

 日本は、アメリカやEUのように半導体に特化した法律があるわけではないのですが、米欧に匹敵する政府資金が半導体産業に投入されています。特定半導体基金、経済安全保障基金、ポスト5G基金といった、複数の財源から半導体関連の支援予算が拠出されていて、全容を掴むことが難しい状況です。

 個別の案件ごとでは、2024年度までの金額として、TSMCの熊本第1工場に対して4760億円、第2工場に7320億円と、合計1兆2000億円以上を助成することになっています。それに加え、キオクシアとウエスタンデジタルに合計で2429億円、広島に工場を持つアメリカのマイクロン(日立、三菱電機、NECの半導体部門を引き継いだ旧エルピーダメモリを買収した企業)に合計で2135億円を投入することになっています。

 また、ラピダスに対しては、2024度までに9200億円の補助金が出されています。さらに、ラピダスを支援するための法律も成立し、政府の支援を強固なものにしようとしています。日本政府はこのように多額の資金を投入して、半導体産業を活性化させるべく、積極的な産業政策を展開しています。

 かつて日米半導体協定で日本の産業政策が強く批判されたことを考えると、近年では半導体の地経学的重要性が認識され、経済安全保障上の問題として、半導体産業を維持し、戦略的自律性と戦略的不可欠性を確保することが重要であるということが国際的にも認められた、ということになるのだと思います。