実はこれは、既に太陽光パネルなどのいくつかの産業分野で実現されていることなのです。中国は巨額な国家補助によってオーバーキャパシティ、すなわち過剰な生産能力をつくり、その過剰生産分をダンピングのような形で安売りをして他国の産業を消滅させようとしていると言われています。
2024年4月にアメリカのイエレン財務長官(当時)が訪中した際に、「公平な競争条件が必要だ」と強調し、これらのことについての警鐘を鳴らしたのも、こうした背景があったからだろうと思います。
この半導体のサプライチェーンの中で、先端半導体やレガシー半導体に関して、各国が持つ力の差が地経学的パワーの競争となっていますが、では、その差をつけるためにどこまでのコストを負担できるのでしょうか。
半導体サプライチェーンにおける
近年の動向をおさらい
アメリカは、半導体サプライチェーンを強化するため、自国内での半導体製造能力を保持する必要性があるとして、2022年にCHIPS・科学法(CHIP Sand Science Act)を成立させ、半導体製造工場を建設する企業に対して補助金や税制優遇を与えるようにしています。
この法律を受けて、台湾のTSMCはアリゾナ州に3つの工場を建設することになっており、第1工場では回路線幅が4ナノメートルの半導体を2024年から既に製造しており、順調にいけば、第2工場では3ナノメートルの半導体を2028年中に、第3工場では2ナノメートルないしそれ以下の半導体を2030年末までに製造開始する予定になっています。
バイデン政権は、これらの工場に対し、最大66億ドルの助成を決め、それ以外にも韓国のサムスン電子がテキサス州に作る予定の工場に、総額で47億ドルという巨額の支援を用意しました。しかし、CHIPS・科学法によって半導体工場をアメリカ国内に誘致しても、現地でTSMCやサムスン電子が作る半導体の需要があるかどうかは別の問題です。
実際、サムスン電子は十分な顧客が見込めないとして、テキサス州の工場建設を一時停止し、顧客が見込めるようになるまで工場建設を遅らせるとの判断をしています。また、このCHIPS・科学法は、補助金を受け取った企業が、中国(を含む懸念国)に対して10年間は追加の投資をしないことを補助金支給の条件にしています。







