凄い人数が部屋に押し込められて、「何が始まるんだ?」とか「バイトしたいのにこんなのに呼ばれて面倒だな」みたいな空気を蔓延させる僕らの前に、ピッシリした髪型でパリッとしたスーツを身にまとった50歳くらいの、風格から察するに多分Googleの偉い人が登壇してプレゼンを始めた。

Googleの偉い人のプレゼンに
芸人たちの反応は……

「皆さんの中にはお笑い界の競争でなかなか結果を出せていない状況の方も沢山いると思いますが、テレビの世界で結果を出す以外にも、世に出て人気者になる方法は沢山あります。これからはYouTubeに力を入れることが活動の幅を広げることになるはずです」

 NSCの授業の時の校長とは違い、優しく紳士的な口調で喋ってはいるが、ネット活動を直感的にバカにする性質のある芸人たちにとっては、ある種引導を渡されているような残酷さもある内容だったので、最初のひと言で場が静まり返った。

 続けてGoogleの偉い人は「今YouTubeの世界にはこういう人気者もいます」と言って、HIKAKINさん、MEGWINさんという、既に数十万人の登録者を獲得しているYouTuberの動画を流して観せてきた。自室でカップ麺を食べている動画や、街中で無茶をしている動画など、今のYouTubeとは違って大画面で観ると余計に画質の粗さも目立ってチープさが浮き彫りになるような映像だったけど、「楽しませよう、笑わせよう」という気概とテレビとは違った視聴者との距離の近さも感じ取れた。

 観ている会場は、NSCの最初のネタ見せの授業でライバル心から皆が「笑ってなるものか!」みたいな空気を発していた時以上の重たい空気が出来上がっていた。

 その場にいる皆が、目の前で流れる知らないYouTuberの動画を否定する理由を心の中で探してムスッとしていたので、静かなだけじゃなくて怒りの感情もそこにあったと思う。

「YouTubeでも全然良い」
という価値観が分かれ道だった

 そりゃそうだ。僕ら世代の吉本芸人のほとんどは、ダウンタウンさんに憧れて、『ダウンタウンのごっつええ感じ』にオモシロの価値観を教育されてこの世界の門を叩いた者だ。

 フジテレビのゴールデン帯で冠のコント番組を持つことが皆の目標なのだ。テレビの世界では少し前からコント番組の存在がどんどんなくなっていき、その残り香が少しあった『めちゃイケ』や『はねるのトびら』からもコントのコーナーは消えていった。