エヌビディア巡るトランプ氏の心変わり、中国のAI開発促進Photo:Tom Williams/gettyimages

【シンガポール】ドナルド・トランプ米大統領は、型破りな取引によって米中の「技術冷戦」を瞬時に新たな形にした。批判派が懸念するのは、トランプ氏が中国の追い上げを手助けしてしまったことだ。

 トランプ氏は米半導体大手エヌビディアに人工知能(AI)半導体「H200」の対中輸出を認めることで、同社が求めていた巨大市場を与えた。しかし同時に、中国のAI産業に対し、自力では製造できなかったものを提供した。それは米国に対抗するために必要な最先端半導体だ。

 8日まで、こうした半導体を巡って政治的な議論が渦巻いていた。国家安全保障派は、中国の軍事兵器の開発、そしていずれは人間をしのぐ高度なAIシステムの開発を阻止するため、輸出を差し控えるべきだと主張した。

 一方、エヌビディアはこう反論した。中国の資金が米国のイノベーションを促進している、と。

 トランプ氏はエヌビディアの側(がわ)に立つことで、事実上、この議論に決着をつけた。同氏はソーシャルメディアに「われわれは国家安全保障を守り、米国の雇用を創出し、AI分野における米国の優位性を維持する」と書き込んだ。

 今回の取引の仕組みは依然として不明瞭だ。トランプ氏は米国政府がエヌビディアの対中売上高の25%を受け取ると述べたものの、その方法については説明しなかった。だが勝者は明らかだ。第一の勝者はAI半導体分野で圧倒的な地位を占めるエヌビディアだ。同社は地政学的な制約がなければ四半期あたり最大50億ドル相当の半導体を中国に輸出できると試算していた。

 第二の勝者は中国自身だ。国内の半導体メーカーは劣った製品を製造しており、量も十分ではない。中国の著名なスタートアップであるディープシークは、比較的少数のエヌビディア製半導体で驚くべき成果をあげられることをすでに示している。

 中国の買い手がこれらの半導体を欲しがっていることは明らかだ。8日に公表された司法省の事件がそれを裏付けている。ヒューストンの連邦検事局は「オペレーション・ゲートキーパー(ゲートキーパー作戦)」により、少なくとも1億6000万ドル相当の規制対象AI半導体を中国などに密輸しようとしたネットワークを摘発したと発表した。