これまでの政府の説明では「10月に新米が出回るとコメの価格は下がる」というものでした。ところが現実には、石破内閣の下で備蓄米が放出された際に一時的に下がったコメの価格は、新米の季節になって逆に上がり始めています。

 コメの価格が昨年に続いて高騰した理由は、流通業者によるコメの奪い合いです。コメ農家によれば、農協が生産者に提示する概算金が今年は異常に高い金額で提示されたそうです。その理由は、令和のコメ騒動で卸業者が高値でコメを買い集めたことで、農協の集荷率が低くなってしまったことが背景にあるようです。

 卸業者と農協との仕入れ合戦で新米の仕入れ価格が上がってしまった。これはコメ農家にとっては朗報ですが、問題は流通です。高値で仕入れたコメは高値で売らないと損失につながります。

 ところが需要面では、コメ価格の高騰で国民のコメ離れが起き始めています。直近の物価水準だとご飯を一膳食べるのと比べて、食パン1枚で済ますなら家計のコストは2分の1以下になります。多くの家庭で、食卓でコメを使う頻度を減らす自己防衛策が広まっています。

 この需要が供給よりも少ない状態が続くと、在庫を持つ業者が耐えられなくなってコメの販売価格が暴落する危険性があります。どこかのコメ卸業者が逆ざやでコメを放出しはじめるとそうなります。

 これはようやくコメを育てて利益が出せるようになったコメ農家にとっても大打撃です。

 そしてそのリスクを回避する方法があります。それがおこめ券なのです。おこめにしか使えない券が各家庭あたり3000円分(利用分としては前述の理由から2640円分)が配布されれば、市民からみれば自分のお金で買うわけではないので高いおコメでも買う人が増えます。おこめ券はパンを買うのには使えないとなれば、なおさらです。

 つまりこのおこめ券推奨の表の顔は「物価高で苦しむ国民救済」なのですが、裏の顔として「在庫に苦しむコメ流通の救済」があるのです。そしてその裏の目的が達成されることで救われるのは、最終的にはコメ農家ということになります。