“普通で問題なく育った”息子がなぜストーカーに…「いま以上」を求めてきた家庭に潜む不穏な空気【マンガ】『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社

さまざまなメディアで取り上げられた押川剛の衝撃のノンフィクションを鬼才・鈴木マサカズの力で完全漫画化!コミックバンチKai(新潮社)で連載されている『「子供を殺してください」という親たち』(原作/押川剛、作画/鈴木マサカズ)のケース6『「ふつう」の家庭に育つ闇・中編』から、押川氏が漫画に描けなかった登場人物たちのエピソードを紹介する。(株式会社トキワ精神保健事務所所長 押川 剛)

「自分が息子を殺すしかない」と極論に至る父親の“病”

 トキワ精神保健事務所の「精神障害者移送サービス」にはさまざまな相談が舞い込む。今回は前回に引き続き、元交際相手の女性に刃物を向けてしまったという宝田由伸(23歳・仮名)のケースだ。ストーカー行為をやめられない息子をどうにかしたいという両親がやってくる。

 別れた彼女に暴力を振るい、ストーカー行為の果てに刃物を持ち出した由伸は、銃刀法違反と暴力行為違反で逮捕された。事件は新聞沙汰になり大学は退学処分。勾留中に示談となり釈放されている。

 マンガでは深く触れていないのだが、由伸は釈放後「取り調べに問題があった」と主張し、該当の警察官がいる所轄にクレームを入れていた。さらに自宅近くの交番や警察本部にまで日に数十回も電話をするなど、常軌を逸した行動をとっていた。

 由伸は元彼女に対する暴力行為は認めており、クレームの主張は荒唐無稽だ。しかし一方で、由伸には大学に入学できるだけの基礎学力がある。虚無的で荒んだ生活を送りながらも、制度を踏まえて根拠や理屈を並べ、第三者を追い込める余裕があるのだ。

 私は由伸の友人にも会ったが、友人は由伸のことを「明るくてやさしいやつ」と評した。心配して実家を尋ねるほどの仲だから、本心からの言葉だろう。人生の歯車が1つ狂っただけで、歪んでしまった認知が暴走している。このような特性から由伸は、逮捕されてもなお元彼女へのストーカー行為をやめようとしなかった。

 両親は何とか説諭しようと試みたが、本人の口をついて出るのは「殺す」「死ぬ」といった言葉だった。両親は追い詰められていた。そして私に相談に来たのである。

 相談の席で父親は、「彼女を殺してしまうくらいなら、自分が息子を殺すしかない」と言った。父親は必死の形相をしており、本当に今にも息子を刺しかねないほどだった。

 私は、父親が息子とまったく同じ考えを持っていることに驚いた。息子は元彼女を、父親は息子を、「殺す」という極論で終わりにしようとしている。これもまた「普通」という枠のなかで生きてきた家族がもつ、独特の思考に思われた。

 父親は由伸が憎くて言っているのではない。むしろ相手の女性、そして傍らにいる妻や、由伸以外の子どもたちを守らなければいけない、という強い思いがあったのだろう。

 枠にはまって生きる人ほど、不確定要素のある問題が起きたときに、そこに正解を求める。しかし正解が見つからないとなると、感情が優先に立ち、極論をもって事に臨もうとする。まさに家族全員が病んでいる状態であり、だからこそ精神科医療が有効なのだ。

 この家庭において由伸を救う方法は、医療に頼ることで「殺す」という極論をいったん沈静化し、家族が健全な精神状態を取り戻すこと。私はそう確信した。


 現代社会の裏側に潜む家族と社会の闇をえぐり、その先に光を当てる。マンガの続きは「ニュースな漫画」でチェック!

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