マヤカは、渡辺が差を詰めてきたことで少し焦っていた。しかも、最初にオーバーペースで入った影響が出て、20キロメートル過ぎにスローダウンした。
「せっかくトップで襷をもらったのに、ここで負けては意味がない。みんなに合わせる顔がない。そう思い、必死でした」
マヤカはラスト300メートルで襷を外し、握りしめて坂を上った。坂に弱いので、このままでは差をどんどん詰められてしまう。いちばんきつく、プレッシャーのかかるところだが、1秒でも早くチームに襷を渡さないといけないと思い、懸命に腕を振った。
「速く、速く」
と呪文のように唱えて走った。
渡辺の視界には、マヤカの姿はまったく見えなかったが、もはや気にはしていなかった。目指す先は、区間記録だけだ。目標の6分台が見えてきたのは、20キロ地点を超えてからだった。
箱根駅伝を4回走ったなかで
一番の走りができた
「20キロのタイムを見たとき、3キロを9分15秒くらいでいけば、6分台が出るというのを確認しました。でも、残り3キロって、とくに最後の坂がきつくて、スパートが効かないんです。戸塚警察署の横の信号が見えても、まだ300メートルある。ここが遠くて、なかなかゴールまでたどり着かない。リレーゾーンが見えてもまだもがいていました」
マヤカはすでに襷を渡し、1時間07分20秒という区間新記録を出していた。
このことを渡辺は、まだ知らない。リレーゾーンに入る前、一瞬、時計を見た。6という数字がハッキリと見えた。これはいったなと確信した。
3区の小林正幹に襷を渡し、待機所に向かった。付き添いと歩いていると、周囲がざわついている。マヤカのタイムはまだ聞いていなかったが、周りの興奮した様子から区間記録を塗り替えたと確信した。
「いったか」
「1時間06分48秒、区間新記録です」
付き添いの興奮した声に、喜びがじんわりと体中に広がった。
「やったと思いましたね。自分が今までやってきたことがすべて繫がった感がありました。大塚正美(日本体育大学、1時間07分34秒)さんの区間記録が12年間、ずっと破られていなくて、誰が破るのかってなったときに、僕かマヤカかと言われた。







