大人気となった「VSE」が
わずか18年で引退した理由
そんな中、箱根観光特急として再起すべく、建築家・岡部憲明氏にデザインを託したのが「VSE」だった。「VSE」とはVault Super Expressの略。ヴォールトとはドーム型の天井を意味する建築用語である。
1987年登場の10000形「HiSE」以来18年ぶりに、前面展望席、車両と車両の間に台車を配置する連接構造という王道スタイルを復活。上部から足回りまで一体となった流線形の車体は「シルキーホワイト」一色で染め、歴代ロマンスカーのイメージカラー「バーミリオン・オレンジ」の帯をまとった。
「VSE」は観光特急としての空間、眺望と居住性に徹底的にこだわった。車内は愛称の由来となった室内高2.55メートルのドーム型天井、木材を使用した温かみのある内装、大型連続窓を配置し、座席はわずかに窓側を向けるなど空間を演出した。
2005年3月に運行開始するとすぐさま大人気となり、ロマンスカーの「中興の祖」とも言うべき車両となったが、「アルミ合金押出型ダブルスキン構造」の流麗な車体と、日本ではほとんど例のない連接構造というアイデンティティが、皮肉にも同車を短命化させた。
通常、鉄道車両は20年前後で車体や機器を更新して30~40年程度使用する。1980年デビューの7000形「LSE」は2018年まで、前出の「HiSE」は小田急では2012年まで、一部車両は長野電鉄に譲渡され今も現役だが、特殊な構造のVSEは修繕・更新が困難であるとして更新を行わず、わずか18年で引退が決定した。
展望席付きのロマンスカーは2018年に導入された70000形「GSE」が引き継いだが、同車は2編成しか製造されなかった。小田急は「VSE」が引退した2022年のダイヤ改正で、コロナ禍による利用減を反映してロマンスカーを大幅に減便しており、現状は「GSE」2編成を観光利用の多い列車に集中的に充てている。
同社はロマンスカーの乗車率、収入額は公表していないが、小田急箱根鉄道線(旧箱根登山鉄道)箱根湯本駅の乗降人員の推移を見ると、コロナ後の落ち込みは一定程度、回復しているようだ。一方、小田急全線の通勤定期輸送人員は2018年度比14%減となっており、出退勤時間のフレキシブル化や平均混雑率の低下で通勤特急(モーニングウェイ・ホームウェイ)の利用は減少していると思われる。







